コラム

社内外のエンゲージメントを向上させる効果的なインナーコミュニケーション施策とは

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▼語り手プロフィール
株式会社DNPコミュニケーションデザイン
第2CXデザイン本部
副本部長 中村 里香/Rika Nakamura

昨今、人的資本経営に注目が集まるとともに「従業員エンゲージメント」や「インナーブランディング」というワードを度々メディアで見かけるようになりました。インナーブランディングに取り組むことで具体的にどんな効果が期待できるのか、DNPコミュニケーションデザイン(以下、DCD)ではどのような施策が可能なのか、企業ブランディングの企画・制作を担う第2CXデザイン本部・副本部長の中村里香がお話しします。

1.インナーブランディングは、従業員のエンゲージメントを高める特効薬になり得る?

― インナーブランディングの施策とは、どんな目的で実施されるものなのでしょうか?

一般的には、従業員のモチベーション向上や一体感の醸成、自社のビジョンやパーパス、サステナビリティの浸透などを目的とすることが多いです。
中でも近年目立つのは「従業員エンゲージメントの向上」をキーワードとしたインナーブランディング活用で、労働生産性を高め、企業価値を底上げするファクターとして注目されています。

― なぜ今、インナーブランディングに注目が集まっているのでしょうか。そして、その背景には、企業にどのような課題感があるのでしょうか?

大きく3つ挙げられます。

1つ目は「企業が掲げるビジョンや存在価値に対する認識の希薄化」が挙げられます。“こんな世界をめざして、私たちは存在しているんだ”という“会社への想い”や“めざしている方向性”は、会社の規模が大きくなり、事業領域が多岐にわたるにつれてわかりにくくなりがちです。トップの想いやメッセージも届きにくくなるでしょう。従業員は“会社がめざす方向性”や“ビジョン”をイメージしにくいので、自ら考えて行動できなくなります。そんな状態だと、“会社への共感”や“愛着度”も高まりにくいですよね。会社が見ている未来に共感し、自分と会社とをつなげ、自分事として考えられる状態を作り出すことは、従業員のモチベーション向上やイノベーション創出などにも大きく影響を与えます。

2つ目は株主や取引先など市場から「人的資本経営の強化を求められていること」が挙げられます。人的資本は、企業にとって非常に大切な資産の一つです。企業の持続可能な成長のために、従業員に投資していくことは、企業の競争力を高め、株主やステークホルダーにとってもよりよい経済的成果をもたらすことにつながります。

そして3つ目は「雇用の流動性が高まっていること」です。一昔前に比べると転職は一般的となり、多くの企業が、離職率の高さや優秀な人材の流出に頭を悩ませているのではないでしょうか? 個人のライフスタイルやキャリアプランにあわせて雇用の選択肢が増えたことや、そもそも、転職に対しての心理的なハードルが下がったことで、キャリアアップや、やりがいを求めて転職をする人が増えています。実際に、人事担当の方からも転職理由として「今のままだとやりがいや成長を実感できないので…」という声が多いと聞いています。
さらに、これからは少子高齢化が進み、労働人口が減少し、企業は今後ますます人材確保が難しい時代となってきています。企業は、競争力を維持するためにも優秀な人材の流出を防ぐ必要があります。

こうした課題に対して効果的にアプローチできるのが、インナーブランディングだと言えます。適切な施策の実施によって「良い会社だな」「働きやすく、働きがいのある職場だな」と従業員に感じてもらえるようになれば、それは従業員エンゲージメントの向上にもつながるでしょう。

― これまで多くの企業がインナーブランディングに積極的でなかったのには、何か理由があるのでしょうか?

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従来は、シンプルに「いいもの、いいサービスをつくれば売れる」という世界観でビジネスが成立し、成長してきました。だから、物を生み出す従業員も、単純なコストとして捉えられてきたのでしょう。言い換えれば「従業員にさほどお金をかける必要はない(コスト増になる)」という考えだったと言えます。
しかし、時が進み市場が成熟してくると、技術やサービスでの差別化が難しくなってきます。成長し続けるには、単なる品質の向上にとどまらない、新しい価値の創出が必要です。それを生み出すのは、人に他なりません。だからこそ、従業員を「コストから資本へ」と捉え直し、彼らが価値を創出できる環境を提供する。そのための投資が、インナーブランディングということなのだと感じています。

2.真の課題を捉え、確実に効果の上がる施策のために必要なこと

― インナーブランディングを強化するには、どのようなステップで、どんなことに取り組む必要があるのでしょうか?

インナーブランディングは単発の施策で終わらせるのではなく、一貫性のある施策を根気強く続けることが重要です。そのために、まずは現状を的確に把握&分析し、中長期でコミュニケーション全体の設計図を描く必要があります。その上で具体的な施策を検討します。例えば、従業員にビジョンやパーパスについて理解してもらうには、企業のミッションやブランドメッセージに対して理解を深めるための発信やトレーニング、教育プログラムなどの提供が必要となります。また、シナジーを生み出すために、チームメンバーとのコミュニケーションを活性化させる、さまざまな施策を通じて、対話を深める取組みを増やしていくことも有用でしょう。

さらには、定期的にエンゲージメント調査をして、活動を循環させていくことが重要です。課題や改善点を見直し、必要な施策を打つことで、職場環境を改善し、従業員の仕事へのモチベーションが高まり、さらなる創造性の発揮につながるはずです。職場環境や仕事へのやりがいを示すエンゲージメントの向上は、従業員の幸福度を高めるとともに、企業の成長やブランディングを高めることにつながります。
このような考え方のもと、当社ではインナーブランディングの強化には、クライアントからのご相談を受けてから、次の4つのステップで進めていくことが理想的だと考えています。

1. プロジェクト設計

DCDのディレクターが、クライアントの課題感や要望をヒアリングして、目的を整理しながら推進体制の整備、スケジュール策定等の準備を整えていきます。

2. 全体戦略策定

社内アンケート(従業員エンゲージメント調査を含む)などを実施しながらクライアントの現状を把握し、最終的なプロジェクトのゴールを見定め、全体の計画を立案していきます。

3. 個別施策設定

解決すべき課題の優先順位をつけながら、具体的な施策内容と合わせて、効果検証のための方法などを決めていきます。

4. 施策の実行・運用

計画にのっとって施策を実行し、一定期間後に効果検証と振り返り、改善プランの提案を行います。

インナーブランディング強化に取り組む4つのステップの図

クライアントからの要望や状況によっては、上記のどれかを部分的に担うこともありますが、施策設定までのヒアリングや状況把握については、なるべく省略せず、時間をかけて丁寧に行っています。

― それはなぜですか?

クライアントからは「〇〇という課題があるので、××という施策をやりたい」と、ある程度やりたい施策を具体的にご相談いただくことも多くあります。もちろん、その場合もさまざまなディスカッションを重ね、最善の策をご提案させていただきます。ただ、より深いヒアリングや調査を実施すると、「違うアプローチのほうがよいかも」ということが見えてくるケースも少なくありません。
たとえば「20代の離職率が増加しているから、もっと彼らに仕事のやりがいを感じてもらえるような施策を集中的に行いたい」と相談があったとします。当事者に働きかけていくのは当然ですが、調査をすると「尊敬できる上司が少ない、ロールモデルがいなくて不安」といった現状が見えてきたりもします。
もしここが大きなネックになっているのなら、施策の優先度と集中度を分散させ、30~40代の中堅層に「よりいきいきと働いてもらうための施策」「チームリーダーとして、自分たちの役割を再認識させる施策」を実施したほうが、望ましい効果が出てくるかもしれません。

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このように、大事なのは、目先のわかりやすい課題感にとらわれず、現状をつぶさに観察して、「真の課題はどこにあるのか、最も解決に寄与する施策は何なのか?」と考えながら、仮説検証を繰り返すことです。

3.効果的な施策まで導くDNPオリジナルの従業員エンゲージメント調査

― インナーブランディング施策の策定・実施の中で、DCDならではの強みとしてアピールできるポイントはどこでしょうか?

従業員エンゲージメント調査のために、DCD独自のツールをいくつか開発しています。
そのうちの1つDNPオリジナルの「従業員エンゲージメント調査」は、従業員満足度調査とは異なり、企業と個人の双方向的な関係性にフォーカスした調査ツールです。従業員のエンゲージメントを高めるには、「環境=職場環境・待遇」「関係=会社との関係性」「職務=仕事でのやりがいなど」の3つの要素が重要だと考え、そこでの課題やコミュニケーション浸透度を読み解きます。

従業員エンゲージメントの重要な3要素の図

一般的なサーベイは調査結果の提示で終わり、分析と施策とを適切につなげられていないことがよくあります。DNPではこの調査で課題を抽出し、その後、具体的な施策の立案、ツール制作まで一貫してご支援させていただきます。

課題に対して実施できる施策のバリエーションの豊富さ、クオリティの高さも、当社ならではの強みだと自負しています。「組織風土改革」「健康経営」「パーパスの設定・浸透」「サステナビリティの浸透」など、インナーブランディング施策として主要なテーマを10枠にカテゴライズしており、それぞれの枠内でさまざまな施策の実例を持っています。
ブランドブック、社内報、Webサイト、動画などはもちろん、各種イベントやワークショップの企画運営まで、さまざまなメディアを用いた多種多様なアプローチをご提案できます。

SDGs浸透冊子/DNPグループ「SDGs CONCEPT BOOK」

また、アウトプットクオリティの高さは、外部評価としても現れており、例えば経団連推薦社内報(社内報のコンテスト)では我々DNPグループの社内報が毎年上位賞を受賞していますし、一般社団法人日本印刷産業連合会が主催する第65回全国カタログ展でも、DCDが制作を手掛けた株式会社コンコルディア・フィナンシャルグループ様のインナーコミュニケーションツール「CONCORDIA REPORT 別冊『ARE YOU READY 次の一歩に向けて』」も実行委員会奨励賞を受賞するなど、数々の賞を受けております。
行動をうながすための仕掛け、その気にさせるための見せ方、誰にでもわかりやく伝えるためのオリジナルメソッド「IGUD(アイジーユーディ)(※1)」などの組合せにより、効果のあるアウトプットをご提供しています。

(※1)「IGUD」は、「DNPデジタルマーケティング時代のデザインメソッドIGUD」の略称です。
(※1)「IGUD」は、大日本印刷株式会社の登録商標です(商標登録第6084988号)。

DCDが制作を手掛けた株式会社コンコルディア・フィナンシャルグループ様のインナーコミュニケーションツール
「CONCORDIA REPORT 別冊『ARE YOU READY 次の一歩に向けて』」※2023年4月発行時現在

最後に。DCDでは従業員エンゲージメントの向上を、インナーとアウターの両輪で考え、段階的に施策を実施していくべきと考えています。
上記でお話してきたようなインナーコミュニケーション施策も、例えば、従業員の想いや取組みを社外にも発信するなど、アウター施策も組み入れることで、社員一人ひとりのモチベーション向上やアイデンティティの確立につながるとともに、外部からの企業価値向上にも貢献し、それが再び、従業員の耳に入るという好循環スパイラルを生み出す仕掛けを作っていくと考えているからです。

― 最後に、現在インナーブランディング施策の実施検討をしている方々にメッセージがあれば、ぜひお願いします。

DCDには、ブランディング周りの施策策定に長(た)けたコンサルティング部門、アナログ・デジタルを問わず高い技術力・表現力を誇るクリエイティブ部門など、広い視野で企業の価値向上にコミットできるプロフェッショナルが揃っています。さまざまな要望にお応えできると自負しておりますので、まずはぜひご相談いただけたら幸いです。

※2024年8月時点の情報です。