人材不足や働き方改革の推進などにより、近年注目度が高まっているBPO(ビジネス プロセス アウトソーシング)。リソース確保の一手段となることはもちろん、その分野に長(た)けた専門性の高いメンバーが担当することで、業務フローの改善やクオリティアップが期待できるという点でも、注目を集めています。そこで今回は、約1700店舗を持つスギ薬局様のエリアマーケティングを長年にわたり支援しているDNPコミュニケーションデザイン(以下、DCD)中部CXデザイン本部の3名に、これまでの取組みや構築してきた関係性、支援内容の奥深さなどについて話を聞きました。
葛谷:定期的に新聞折込用として発行するレギュラーチラシを筆頭に、新店オープンチラシ、外国人観光客向けチラシ、グループ会社「ジャパン」様のチラシを手掛けています。
そのほか、新聞広告や屋外広告、YouTube動画、アプリコンテンツなどもお任せいただいています。十数年以上前に初めてチラシ制作を担わせていただいてから、今では紙ものに限らずデジタルを含めたさまざまな販促・集約施策にまでサポート領域が広がっています。
葛谷:運用当初は協力制作会社に入ってもらっていましたが、今は運用基盤を踏襲するかたちで内製化しています。製品ごとの仕入れ担当者と緻密な連携が必要となる中、制作が思うように進まない事態が起きていたからです。そこで、チラシ制作を内製化し、オンライン対応や作業効率アップを実施したほか、ドラッグストア業界における定番の商品選定やパターンの把握などを通して、よりスギ薬局様に特化した制作体制を築いてきました。さらに先方にも原稿の精度や時間管理の面で協力を仰ぎお互いのやり方を調整することで、比較的安定した制作体制が保(たも)てるようになったと感じています。
葛谷:はい。毎週実施している定例会議では、常に運用体制やチラシの企画などの提案を実施しています。そこで感触のよかったものはすぐ翌週にかたちにして見せるなど、テンポよくコンスタントに試行錯誤を繰り返して、ただのルーティンにとどまらない工夫を展開しています。
丹羽:例えば、中国人観光客をメインターゲットにした外国人観光客向けチラシでは、店舗の場所を知らせる地図を掲載しているため、そこに有名観光地も同時に載せるようにしました。
「訪問予定の観光スポットの近くに、こういう店舗があるんだ」ということを知ってもらえれば、集客につながる。クライアントに言われる前に、先んじてこうした工夫を重ねていくことは重要だと考えています。
葛谷:また近年は、折込チラシの部数も効果も減ってしまっています。なので折込チラシに固執せず、動画制作や広告展開なども提案し、「チラシ制作部隊」として線引きせず「スギ薬局様のためになることは何でもかたちにするチームメンバー」として伴走しています。
山田:近年スギ薬局様は、年間125~130店舗のペースで新店をオープンさせています。単純計算で、3日に1店舗ができているということ。10店舗ほど同時にオープンすることもありますし、これに加えて毎日のようにリニューアルオープンも進行しています。ですから、新店ができるたびにその店舗用のチラシ案をつくっていては到底追いつくことはできません。
そこでわれわれは、新店オープン用としていくつかのデザインフォーマットを用意して対応しています。もちろん都度全く同じものを出すのではなく、折込み会社の持つデータから配布エリアの生活者の属性を把握し、スギ薬局様の会員情報などを照らし合わせて、地域環境に合わせたカスタマイズを適宜実施し、効率とクオリティのバランスをとって制作しています。
山田:実はドラッグストア業界の新店チラシに掲載される商品には、定番洗剤や有名スナックといった「お決まりの商品」があります。購買層が普段から購入していてその安さを実感してもらいやすい、いわば「ホームランバッター」のような存在。これらを選定し周辺他店より安い価格で掲載することで、周辺顧客に「お得なお店だ」と認識してもらえるように紙面を設計していきます。
レギュラーのチラシでは生活提案のような企画を展開しますが、オープンチラシは、まず、いち早くお客様に認知してもらい、新店舗をいつものお買い物コースにしてもらうことが重要。チラシごとの目的を精査して、業界や市場にあった提案ができるよう心がけています。
山田:新店チラシでは、売れ行きの良い商品の提案はもちろんのこと、過去の商品掲載時の売れ行きをもとに、商品が売れる最適な価格もご提案しています。それによって競合他社と比べても、新店チラシが顧客にとってより魅力的なチラシになります。
山田:最初から「できません」という言葉は使いません。まずできそうなことを探していく。やれるかやれないかではなく、できる前提で活路を見いだす。この姿勢での即対応が重要なのだと思います。
例えば東京・渋谷の新店オープンにあたって、諸事情により急きょ3~4週間前に屋外広告の展開を打診いただいたことがありました。しかしそのタイミングはもうすでに広告審査が締め切られたあと。他の広告代理店さんであれば「それは無理です」と言ってしまいそうな案件ですが……私たちはとにかく各媒体の方にダメ元で連絡をとり、屋外ビジョンや階段ラッピングなど押さえられるところを必死に探し回りました。同時に絵づくりも進めて、2日で動画とグラフィックのデータを制作しギリギリで納品。綱渡りではありましたが、走りながらどうにかかたちにしていきました。
山田:否定的な意見からは何も生まれないですからね。それにスギ薬局様は、常に「できない」ではなく「どうやったらできるか?」を第一に考えていらっしゃるんです。私たちもそんなスギ薬局様の企業文化を体現しながら日々業務に向き合っています。この根幹部分を理解し実行できていないと、こうして一緒にお仕事をするのはなかなか難しいのではないでしょうか。
やはり包括的に業務支援を行うBPOとなると、「自分もクライアント企業のいち社員である」という覚悟で考えを巡らせねばなりません。まさに気持ちや状況をどこまでくみとれるかが勝負なのです。いつも隣にいて気軽に相談でき、どんなに厳しい状況であっても笑って一緒に走り抜いてくれる人。そんな姿こそが、DCDらしいBPOのかたちなのかもしれません。
葛谷:今やチラシは需要減の傾向にあります。だからこそこれまでやってきたことにとらわれず新たな取組みに意欲的にチャレンジしていきたいですね。例えばチラシ以外では、販促システムに関わるデータの納品・アップデートも当社で担っています。最初はやったことのない業務でしたが、今ではBPO支援の重要な基盤となり、さらに広告やアプリなどもお任せいただけるようになっています。DCDではマーケティング戦略の立案~施策の実行において、デジタル、リアル問わずさまざまな実績がありますし、専門性を要する流通・小売業界様の販促活動においてノウハウを持ったディレクターが多くいます。何か課題があればまず一番にDCDに相談いただける関係を築き続けていきたいですね。
山田:そうですね。調査や制作のスキームは構築できていますし、ノウハウも蓄積されているので、お役に立てる企業は多く存在するのではないでしょうか。特に当社は全国に拠点を持ち、各人がスペシャリストとして活躍している企業。全国展開をしている、またはこれから全国展開を検討している小売企業様には特に、お力になれることがあると思います。
もちろん、スギ薬局様のようにさまざまなことをお任せいただくとなると、深い関係性の構築が不可欠となります。「ここまでできる会社なんだ」ということをぜひ知ってご信頼いただきたい。その上で、一緒に走っていけるクライアントが増えたらうれしいですね。
※2024年9月時点の情報です。