人的資本経営を実現するための企業ブランディングとは

人的資本経営のイメージカット

近年、企業価値を最大化するための経営戦略として「人的資本経営」が注目を集めています。本記事では、人的資本経営が求められるようになった背景と、それを実現するためのポイントについて解説します。

1. 人的資本経営の基本――人は「資源」ではなく、「資本・資産」である

人的資本経営とは、従業員一人ひとりを文字通り"資本"ととらえて、その能力や知識、スキルを企業の重要な資産と位置づけて育成・活用することで、企業の持続的な成長をめざす経営手法です。

従来の人事管理では、従業員は企業が雇用して使役するための人的“資源”と見なされがちでした。それはつまり、企業にとって従業員は営利活動をするための手段のひとつでしかなく、設備や材料などと同様のコストとして扱われることを意味しています。

人的資本経営では、従業員一人ひとりが持つ知識、スキル、経験、能力そのものを"資本≒資産"と定義します。「優秀な人材の能力は企業の収益を生み出す源泉となることから、それ自体を“資本”と見なして大事にしていくことが不可欠だ」というのが、人的資本経営の特徴的なスタンスです。

「この人材は優秀な能力を持っているので、その力が最大限発揮できるような環境を整え、伸ばしていこう」というように、従業員は投資に値する資産(=無形の財産)として、より尊重されるのです。

VRIO分析のイメージイラスト。人的資本は経営資源の重要なひとつ。

2. 日本でも注目され始めた「非財務情報」の重要性

人的資本経営が注目されるようになった背景には、企業経営における非財務情報の重要性が高まってきたことが大きな要因となっています。非財務情報とは、企業の財務的な側面以外の数値で測れない情報のことです。一般的には「経営者が認識しているリスクやガバナンス体制に関する情報」「ESGやCSRに関する活動状況」「サステナビリティの取組み」などが含まれます。

従来の企業評価は、主に売上高・利益・キャッシュフローなど数値化が容易なデータである「財務情報」にもとづいて行われてきました。しかし近年、製造主体の経済から知的労働主体のビジネスモデルへと変化するに伴い、企業価値における無形資産の重要性が高まりました。企業の「サステナブルな成長」を左右する重要な要素の一つとして、従業員の能力・経営理念・ビジネスモデル・企業文化などの定性的で決算書には載らない「非財務情報」が注目されるようになってきたのです。

日本では2021年12月に岸田文雄内閣総理大臣が「人の価値を企業開示の中で可視化するため、来年度、非財務情報の見える化のルールを策定いたします」と表明しました。これを受け、2022年に内閣官房は「人的資本可視化指針」を公表。

さらに金融庁は、大手企業4000社に対して、有価証券報告書等において「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄を新設し、サステナビリティ情報の開示を求めました。また、有価証券報告書等の「従業員の状況」の記載において、女性活躍推進法にもとづく女性管理職比率・男性の育児休業取得率・男女間賃金格差といった多様性の指標に関する開示を求め、2023年3月期決算企業から適用としました(※1)。

(※1)金融庁ホームページを参考:https://www.fsa.go.jp/policy/kaiji/sustainability-kaiji.html

3. 非財務情報で重要なのは「価値定義・言語変換=企業ブランディング」

上記のような人的資本経営に代表される企業の非財務情報は、ただ法的に求められた数値を開示すればいい、というものではありません。非財務情報の中に込められている企業の理念や姿勢がステークホルダーにしっかりと伝わり、彼らの共感や支持が得られてこそ、真に意味のある発信となります。

そのためには、「非財務情報が指し示す価値を定義すること」「その価値を伝わりやすい言葉に変換すること」といった背景を押さえた企業ブランディングに取り組むことが不可欠になります。

企業ブランディングは、人的資本経営においても重要な役割を果たします。発揮する効果は多岐にわたりますが、主に以下のようなメリットが挙げられます。

1. 人材の獲得と定着

少子高齢化社会が進み、雇用の流動性が増す中で、優れた人材を獲得し組織に定着させることは、あらゆる企業の成長戦略において欠かせないアジェンダです。企業が「人々に素晴らしい価値を提供している、社会に貢献している」という魅力的なブランドイメージを持つことができれば、優秀な人材を引き付けることができます。また、そうした自社のビジョンや理念が明確に言語化されていれば、従業員は自身の働く企業に誇りを持って働くことができるため、定着率も高まります。

2. 競争力の向上

変化の激しい市場での競争力を向上させるためには、他社に勝る強みやブランド力の強化が必要です。優れたブランドイメージを持つ企業は、提供する商品・サービスの品質の高さや安全性についてのメッセージが顧客に届きやすく、他社との差別化を図りやすくなります。

3. 顧客の信頼と愛着の獲得

企業ブランディングは、顧客の信頼やエンゲージメントを獲得するためにも重要です。顧客は信頼できるブランドを選び、そのブランドに愛着を持つ傾向があります。企業が一貫したブランドメッセージや価値を提供することで、顧客の信頼を獲得し、長期的に良好な関係を築くことができます。

4. 企業の組織文化の形成

ブランドイメージやブランドの価値観は、従業員の行動や意識に影響を与えます。明瞭に言語化されたブランドメッセージを持ち、それを企業活動の中で誠実に実践することは、組織全体の一体感を醸成し、より良い組織文化の形成につながります。

真に競争力のある企業を作り上げるために、人的資本経営は極めて重要な経営戦略です。従業員サーベイの導入などはわかりやすい改善策の代表例ではありますが、私たちはそういった定量的な手段に加えて、より定性的かつ多角的な観点から、人的資本経営に資するアプローチができるのではないかと考えています。 このように人的資本経営を実践することは、イノベーション力、生産性、ブランド価値、企業価値の向上、いわゆる企業ブランディングに寄与するといえるのです。

DNPコミュニケーションデザインは、統合報告書の作成はもちろん、クライアントの従業員一人ひとりの幸せに寄り添い、人的資本経営に資する施策の提案・運用、情報の価値化・コンテンツ設計などのコミュニケーションデザインを得意としています。数多くの実績もありますので、ぜひ、ご相談ください。

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株式会社DNPコミュニケーションデザイン 第2CXデザイン本部 副本部長 兼 キャリアデザイン室 室長

中村 里香/Rika Nakamura

クリエイティブディレクター

セールスプロモーションツールの企画・制作を経験したのち、会社案内や社内報、統合報告書などを制作するコーポレートブランディング(CB)ツールの企画・制作に従事。一般財団法人経団連事業サービス・社内広報センターが主催する「社内報実務基礎セミナー」などの講師を務め、情報誌「コミュニケーションシード」でのコラム掲載も行ってきた。 現在はCB関連部門を統括するマネジメント業務に加え、従業員のキャリア設計をサポートするキャリアデザイン室の室長も担う。

  • 2024年7月時点の情報です。

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