デジタル時代の加速で、商品撮影のスピード×コスト×品質が課題に! 大量撮影と画像技術(画像修正・CG)で支える“ささげメソッド”

株式会社DNPコミュニケーションデザイン
コンテンツDX本部
課長 清水 明/Akira Shimizu
近年、商品写真や説明テキストをWebサイトなどで活用できる状態に準備する「ささげ業務(「ささげ」は、撮影・採寸・原稿の頭の文字をとっています)」が注目されています。特にコロナ禍以降、ECサイトのさらなる需要の高まりから、商品の説明に必要な写真枚数が急速に増加しています。「バリエーションや形状など、商品をより良く紹介したいが、撮影の負担やコストを軽減したい」というクライアントの課題に、DNPコミュニケーションデザイン(以下、DCD)の「ささげ業務」の撮影チームが、真剣に取り組んでいます。DCDならではの品質を保ちながら、大量の商品撮影を効率よく進める秘訣(ひけつ)について 、清水明が解説します。
1. 大がかりな建て込み撮影も柔軟に対応、説明動画の撮影までワンストップで提供
「ささげ業務」の撮影チームは、日々どのような業務を担当されているのでしょうか?
チームには撮影スタッフ、撮影ディレクター、画像オペレーターが所属しており、メーカーのカタログやECサイトに掲載する商品の写真撮影と画像編集・加工を担っています。
私たちは、アクセサリーや服、雑貨からオフィス家具まで、幅広い撮影対象に対応しています。なかでも得意としているのは、商品数・カット数が多い案件や、スタジオで大がかりなセッティングが必要になる建て込みの案件です。当社にはCGやレタッチ合成に長(た)けたオペレーターも在籍しており、撮影前に「窓の外の風景は撮影後に合成」「建て込み撮影でのコストや納期を配慮して、天井をCG合成に」など、効率的な撮影スケジュールをワンストップで立てることができます。

また、最近では動画作成にも力を入れています。商品の取扱い方法や機能説明などを目的とした短尺(たんじゃく)の動画であれば、静止画の撮影と一緒に、商品のブランドイメージを理解したディレクターのもと撮影できます。この方法だと、それぞれを個別に作成するよりも低コストで、静止画と動画のトーンがそろったコンテンツが提供できます。動画はここ数年でニーズがかなり伸びてきているので、チーム内の機材や作業環境を充実させ、積極的に対応しています。
2. 磨き続けた技術と、圧倒的なスピードで大量撮影に対応
撮影チームでは、日々、クライアントのどのようなニーズに応えているのでしょうか?
DCDに依頼をしてくださるクライアントの大半は「大量の商品撮影をなるべく負担を少なく、低コストで作成したい」「それでもクオリティは落としたくない」といった要望を持っています。私たちのチームはそれぞれのニーズに高い精度でお応えできていると自負しています。
だからこそ出展者側は、「どのような目的を持った顧客をターゲットにするのか」「事前にどのような情報を出せばターゲットは興味を持つのか」「来たターゲットに向けて何を見せれば、その後の行動変容、商談につながるのか」といったシナリオをいくつか想定し、その狙いに沿ってLPやコンテンツを制作するべきです。労力をかけてたくさんコンテンツを用意しても、10分程度の滞在時間の中で顧客にリーチしきれなければもったいないですから。顧客のニーズをつかみ、そこに対してデジタルとリアルのハイブリッドで最適な顧客体験をつくっていければ、短い時間でも密度の高いコミュニケーションが取れるでしょう。

私たちは大日本印刷株式会社のグループ会社として、長年メーカーのカタログをはじめとする印刷物の制作に数多く携わってきました。その経験を通じて、大量撮影や画像編集に対応できる環境を整え、技術を磨き続けてきました。こうした積み重ねから生まれる、他社と比較した際の強みは、大きく3つあります。
1つ目は、専有スタジオでの撮影ノウハウに長(た)けていることです。総面積約2,800㎡、天井高約5mのスタジオは、大型家具やキッチンなどの建て込みセットを使った撮影にも対応しています。大量の商品を撮影する際には、商品の保管スペースや搬入・設置・搬出など、緻密なスケジューリングが必要です。私たちは自社スタジオでこれらを効率的に行い、1日に多くの撮影に対応することができます。

また、効率化だけでなく品質面においても、専属のカメラマンが高い技術力でクライアントのニーズに応えます。「ナチュラル」「元気のよい」といったブランドが表現したいイメージを丁寧にヒアリングして固めながら、ライティングなどの設定を細かく調整し、画像に落とし込んでいきます。宝飾・トロフィー・眼鏡など、映り込みのケアが必要な難易度の高い対象の撮影も、臨機応変に対応できます。勝手知ったる自前のスタジオで、繊細かつ、高度な照明やセッティングを行うからこそ、どんな商品でも高クオリティな撮影が可能です。

3. 画像修正・CGの技術力で、さらなる高品質・効率化を実現
ほか2つの強みについても教えてください。
2つ目は、画像修正やディレクションに長(た)けた専門のオペレーターがいることと、海外パートナーとの連携による効率的な作業ができることです。例えば、撮影後すぐに海外の提携業者に画像の切り抜き作業を依頼し、時差を利用して翌朝に仕上げることができます。複数のオペレーターが迅速に画像処理に取り組むことで、素早く作業を完了させる…といった手法を取っています。
画像修正においては、とりわけ色調補正に強みを持っています。ブランドのトーン&マナーや空気感に合わせた色調の調整は、言語化が難しく一筋縄ではいかないものです。化粧品やファッションアイテムなどでは、色調が少し変わっただけでブランドの世界観が崩れてしまいかねません。
私たちは長年、さまざまな制作物において、クライアントと入念に対話を重ねながら、正確な色再現技術を磨いてきました。調整した色データをもとにオリジナルのカラーテーブルを作成し、撮影後の編集作業の6割程度を自動化することにも成功しています。これらの技術によって、高い品質が求められるようなブランドの商品撮影でも効率を落とさずに対応できる点は、スピードや効率を求められる今、大きな強みだと自負しています。

3つ目は、CGの合成技術に長(た)けていることです。プロダクトの素材感や色合いを、CGを使用してリアルに変化させることができます。例えばテーブルの写真を撮影する際に椅子が1脚しか用意できなかった場合でも、CGで残りのイスを複製、向きを修正しながら合成・追加することができます。切り抜きで撮影した画像に、オフィスやリビングなどの任意の背景をCGで合成することも可能です。

DCDでは製品のCADデータからフルCGでの商品・室内空間の画像を作成できますが、建物内での実写撮影と組み合わせることで、より柔軟な画像制作が可能になります。例えば、建て込みで天井まで作ろうとすると施工が大がかりになりますが、天井部分だけをCG合成に置き換えることで作業工数を抑え、コストダウンすることも可能です。
CGの活用は予算やその他の制約に応じて、どの程度使用するかを検討する必要があります。DCDでは、豊富な経験を持つオペレーターがクライアントのニーズを丁寧にヒアリングし、どの部分でコストをかけ、どこでCGを活用するか、効率的な撮影にどこでCGを導入するかなど、最適なソリューションを提供しています。
4. 自動化への技術が進むからこそ「人の介在する価値」を見失わない
DCDが撮影をはじめとするささげ業務をお手伝いすることで、将来的にどのような可能性が広がるのでしょうか?
先ほどお話したCG活用の分野は、生成AIの技術と組み合わせることで、今後さらに利便性が増していくと思います。私たちはAI model株式会社と連携し「AIモデル」を活用したサービスを提供しています。商品イメージにあったファッションモデルをAI技術で生成し、その顔を実際のモデルの方に合成していくというものです。
商品にあったオリジナルのモデルを作れるだけでなく、撮影効率を高める点で期待され、服をマネキンで撮影し、顔だけ合成するといったことも試行しています。これを用いればモデル撮影を伴う案件はさらに幅が広がり、CGとうまく組み合わせていけばさらなる効率化も実現できると思います。

この先も技術の進歩によって、ささげ業務におけるさまざまな工程が自動化される可能性があります。しかし、過度な自動化はクリエイティブの質を下げる可能性があるため、丁寧に作業を行うポイントや人間の関与の重要性を見逃さないことが、今後さらに大きな価値を持つと思っています。
私たちのチームの最大の武器は、この分野に熟達したカメラマンとオペレーターが多数所属していることです。これからも私たちが関わる価値を最大化できるよう、クライアントと丁寧にコミュニケーションを取りながら、より高品質なクリエイティブを提供していきます。
- 注釈2025年2月時点の情報です。