“顧客理解”の最前線に立つ。生活者に寄り添う若きディレクターたちの流儀 ― Under32座談会 BtoC編

DNPコミュニケーションデザイン(以下、DCD)では、若手ディレクターたちがみずみずしい感性と確かな技術力を武器に、クライアントの課題解決に取り組んでいます。本記事では「Under32座談会 BtoC編」と題して、BtoC向けのプロジェクトに携わる32歳以下のディレクター4名に、自分たちの仕事の流儀や「コミュニケーションをデザインするプロ」として意識していることについて語ってもらいました。

株式会社DNPコミュニケーションデザイン 第2CXデザイン部
山口 雄大/Yudai Yamaguchi
担当エリア:関東
主な業務:マニュアル・パンフレット・LPの制作など

株式会社DNPコミュニケーションデザイン 東日本CXデザイン本部
阿部 颯/Hayate Abe
担当エリア:東北
主な業務:LINE公式アカウント、LINEチラシの運用など

株式会社DNPコミュニケーションデザイン 中部CXデザイン本部
肥沼 順平/Junpei Koinuma
担当エリア:中部
主な業務:顧客管理ツールの導入支援、販促プロモーションの企画など

株式会社DNPコミュニケーションデザイン 関西CXデザイン本部
小島 実佳/Mika Kojima
担当エリア:関西
主な業務:製品カタログの制作進行、各種ツールのコンサルティング業務など
1. 「生活者目線」を第一に、確かな実績を積み上げるディレクターたち
皆さんが今まで手がけた業務の中で「これは手応えを感じた」「クライアントにも評価いただいた」など、印象に残っていることをひとつ教えてください。
山口:印象に残っている仕事は、とある企業の新規事業立ち上げに合わせたプロモーションの支援です。競合他社が多く、参入が容易な領域で、クライアント側は「差別化のためにはあれも伝えないと、これも訴求しないと!」と発信にすごく前のめりになっていたんです。
肥沼:よくありますよね、そういうケース…!
山口:先方の心情はくみつつも、冷静に「生活者が本当に求めているものを精査しましょう」とクライアントに提案をして、ユーザーリサーチをしながら丁寧に載せる情報の取捨選択をしていきました。そのプロモーションの反応は上々で、先方の担当者からは「さすがですね!」と言ってもらえて。何より、その新規事業が今も続いていることがとてもうれしいです。

肥沼:僕はハウスメーカーの案件で、サイト上のWeb接客のポップアップ運用を担当したことが強く印象に残っています。Webサイト上での行動を分析するなかで、「展示場検索画面の現在地検索を利用している人は、CV(コンバージョン)につながりやすそうだ」と仮説を立てました。定例会での提案、施策の実施と検証を繰り返した結果、ポップアップの表示により現在地検索の利用者は倍増、CVの向上に貢献することができました。
阿部:仮説が狙った通りにハマると、すごく気持ちいいですよね!
肥沼:この案件で学んだのは、合意形成を取るための「簡潔な提案」の重要性です。上司からは常々「クライアントが割いてくれる限られた時間の中で、何をどういう順番で伝えるべきか考え抜け」と言われました。資料を作ってはダメ出しされて、何度も何度も修正したのはいい思い出です。
阿部:いま何を話そうかと考えていたのですが、ひとつに絞るのが難しいなと…全部の案件に思い入れがあるので(笑)。僕は東北エリアで主にデジタルツールの導入支援を担当しているのですが、担当している得意先では都心に比べてそういったツールへの関心はかなり低くて。営業をかけても「折り込みチラシで十分だよ」とよく言われます。

小島:たしかに、エリアごとに新しいツールに対する温度感って結構変わりますよね。
阿部:そういった人たちを口説いて使ってもらうからこそ、すごく責任重大だなと感じているんですよね。だから、一つひとつのクライアントに対して思い入れが強くて。導入後に「売り上げが伸びたよ」と言われると、自分の仕事は間違ってなかったんだと思えて、すごくホッとします。
小島:私は家電メーカーで、ECサイトに掲載するクリエイティブのディレクションをした時のことを思い出していました。クライアントの担当者は業界歴の長いベテランですごく頼りになる方だったのですが、わざわざ職歴の浅い私をプロジェクトメンバーに指名してくれたんです。
その担当者に「自分は業界知識が深すぎて、ユーザーの目線を忘れがち。小島さんのような生活者に近い視点が必要だと思った」と言われて、若手である自分だからこそ担える役割があるんだと、自信を持つことができました。
山口:そうですよね。「ユーザーに近い存在」だということは、僕らの強みになると。
小島:そのお言葉をいただけたからこそ、私はこの案件でユーザーリサーチをリードして、顧客主体のクリエイティブにするための提案をすることができました。プロジェクトが一段落した後に、クライアントからは「これからも継続的にウチの担当になってほしい」と言ってもらえて、「頑張って良かったな」と心から思えました。
2. 世代では決してくくれない「コミュニケーションの最適解」を模索し続けて
皆さんは主にBtoC向けの案件を担当されていますが、BtoCの業務に携わるプロフェッショナルとして、日頃の業務の中で意識的に行っていることはありますか?
阿部:エリアの特性もあるのかもしれませんが…クライアントには定期的に電話をかけるよう心がけています。メールだけでも事足りることは多いのですが、それだと「最近どうですか?」というような雑談が起こりにくいんですよね。たわいもない会話からクライアントの課題が見えることも多いし、雑談の延長線上で仕事の相談につながることも結構あります。
肥沼:それってエリアだからこその特性なんでしょうかね。都市部よりも電話でのコミュニケーションが重宝されている感覚はありますか?
阿部:少し考えてみたんですけど…都市部と比べて、エリアはクライアントとの物理的な距離が遠いんですよね。単純に担当する範囲が広かったり、交通が不便だったりもするので。それに加えて、先方がオンラインミーティングなどになじみがないとなると、顔を合わせる機会がすごく少なくなるなと。物理的距離から生まれる心理的な距離感を、電話でのコミュニケーションが埋めているのかもしれません。
小島:阿部さんのお話、すごく共感します! 私も「大事な局面では必ず電話・対面でのコミュニケーションを取ろう」と意識していて。そう思うようになったのには、過去の失敗が影響しているのですが…。
阿部:どんな経験ですか?
小島:外部の制作パートナーと協業していたときに、かなりスケジュールが押してしまったことがあって。余裕のなさからコミュニケーションも機械的になっていて、すごく心理的な負荷の高い現場にしてしまったなと。
それで、後々の対面での振り返りで「実は先方もキツい状況だったんだ」「あの時だったら私がフォローできたかも」といったことがようやくわかって。制作中に電話の一本でもすれば、もっとお互いの状態が共有できて、安心して状況を立て直せたはずだと感じたんですよね。
肥沼:日常的な業務上のやり取りは、今ではメールやチャットなどテキストでのコミュニケーションが圧倒的に多いですよね。だから、電話するハードルが少し高いというか。
小島:そうですよね。もちろん、テキストでやり取りを簡潔に済ませること、ログを残すことが大事なときもあります。ただ、「いつでも直接話ができる、気軽に相談できる」という関係を自ら積極的につくっていくことが、長期的な信頼を築くためには大事なんだなと、この経験やその後の業務の中で、ひしひしと実感しています。
肥沼:僕も「クライアントに信頼してもらう、頼ってもらうこと」を、業務上ではすごく大事にしたいと思っていて。とは言っても、そのために「何でも頼ってくださいね」と直接的に言うのは、少し違うのかなと最近感じているんです。
山口:それは、どういう意味で?
肥沼:「頼ってください」って、少し受動的な構えなのかな、と。寄り添う姿勢を見せる言葉ではあるけれども、向こうからのオーダー待ちになってしまう。そこから一歩踏み込んで、クライアントの周りにある潜在的な課題や好機を見つけて、積極的に自ら働きかけていくことが大事だと思っていて。

そういう提案の精度を上げるために、業界知識やトレンドの把握、デザイン、マーケティングについてのインプットに励みたいと思っています。少し生意気に聞こえてしまうかもしれませんが、クライアントの横に並ぶ伴走ではなく、一歩先をリードしていけるような存在になりたいです。
山口:「伴走より一歩先をリード」ってすてきですね。僕はクライアントと向き合うときに「フラットな関係」になれるよう意識しています。壁をつくらずに心を開いて接するというか、先方のためになるならちゃんと反論をしたりも…ビビってなかなか言えないこともあるのですが(笑)。

小島:年齢差とかあると、ちょっとためらいますよね…。
山口:そうですよね。年齢差というワードから思い出したのですが、クライアントと若年層向けの施策の打ち合わせをしているときに、よく「若者ってみんなSNS使うんでしょ」「SDGsに興味あるんでしょ」といったことを言われることがあって。そういうときにはちゃんと「若者って、単純にひとくくりにはできないですよ」と進言するようにしています。
今は情報のチャネルが無数にあって、個人の趣味趣向は本当に多岐にわたっているから、世代で傾向をくくるのは難しいと思うんです。だからこそ、クライアントに「どんな若い人たちにファンになってもらいたいですか?」と丁寧にヒアリングをして、リーチしたいターゲットの解像度を高めるのが重要なんですよね。
肥沼:それはすごく大事な視点だなと思います!
山口:そういうことをクライアントに臆せず提言していった先で、皆さんも繰り返し言っていたような「長期的な信頼関係」が築けるのかなと感じています。がんばります…!
3. 「顧客理解」を深めるために注目するリサーチツール
皆さんは普段の業務で取り入れている、または注目してキャッチアップしている、テクノロジーやツールなどはありますか?
肥沼:最新のツールではないのですが、消費者理解を深めるリサーチスペースとして、X(旧Twitter)をよく使っています。
小島:どんなふうにリサーチに生かしているんですか?
肥沼:新しくリリースしたプロダクトやサイトの感想などを探るときには便利ですね。テキストベースで検索がしやすく、ユーザーの生に近い声を拾えるので。また、Xで鋭いコメントや気になる指摘をしていたアカウントを見つけたら、その人のほかのSNSや個人ブログなどもチェックしています。
阿部:すごい、そこまで追うんですね…!
肥沼:熱量の高いコメントをしている人って、すごくニッチなジャンルに特化したブログをやっていたり、専門家がうなるようなレビューを書いていたりするんですよ。教えてもらえることが多いし、単純にコンテンツとしても面白くて(笑)。そういうケーススタディを日々集めて、クライアントにとってターゲットとなるユーザーの行動原理の研究につなげています。
小島:私は最近、 インタラクティブ動画サービス(※)に注目しています。動画の中にさまざまな情報を埋め込み、タップ・クリックによってそれらを参照・ストックできる技術で、これによって動画の体感価値が大きく変わるんじゃないかと感じていて。ただ見るだけではなくて、そこにゲーム性のある仕掛けを作れるし、ECサイトに誘導するなど販促にもつなげやすいだろうなと。
先日、とある企業のプロモーション案件でインタラクティブ動画サービスを取り入れた提案をしたのですが、残念ながら採用には至らなくて。でも、社内からは「面白い切り口だね、ほかでも生かせそう」といい評価をもらえたので、これからも積極的に活用シーンを探っていきたいです。
- 注釈動画から素早く正確に情報にたどり着ける仕組み。視聴者が動画を触るアクション(タップ・ストック・自社メディアへ遷移)を起こさせる能動的な視聴により、「視聴時間」が伸び、コンバージョン率を高めることが可能となる。詳しくはこちら。

山口:いろいろとアイデアや戦略が広がりそうな技術ですね。
小島:あと、直近だと購買データを活用したマーケティングサービスも重宝しています。今まで効果検証が難しかった実店舗でのイベントやキャンペーンの分析が細かくできる優れものなんですが、ある案件で「これは絶対に活用するべきだ!」と感じました。
キャンペーンの仮施策とデモ画面を作って提案しましたが、クライアントだけでなく上司にも「一人でそこまで作ったの?」と驚かれました(笑)。今では販促提案のカギとなるツールとして欠かせないものになっています。
山口:僕もツールの類いでいうと、指定した属性のユーザーにオンラインでヒアリングできる定性調査ツールの「Sprint®(※)」をよく使っています。定量の調査だけを提案のエビデンスにすると、クライアントの反応があまり良くないことが経験上多くて。定量と定性のリサーチを組み合わせることで、訴求内容のバランスが取れて、より説得力のある提案になるという実感があります。
- 注釈「Sprint®」は、株式会社ジャストシステムの登録商標です。
肥沼:その実感、とてもよくわかります。昨今のマーケティングではコンテンツのパーソナライズが各所で進んでいて、とりわけBtoCの領域では、定性的な分析によってニッチな個人・集団の趣向に迫っていくアプローチが有効になってくるんだろうなと感じています。
4. これからのチャレンジに向けて、彼らが見すえる未来
最後に、これからどんな仕事にチャレンジしていきたいか、どんなことを大事にしながら日々の業務に向き合っていきたいか、教えてください!
阿部:挑戦でいうと、企業の周年企画などに関わってみたいですね。紙やイベント、Webなどを包括的に絡めたマルチチャネルでの企画力を養えそうなので、そこで経験を積んでさらに幅広い業務がカバーできるようになれたらうれしいです。
あとは、クライアントの課題解決のために、僕よりももっと若手の目線や意見も取り入れていけたらなと感じています。最近、部署内の新入社員と話す機会が多いのですが、すごく感性が豊かだし、たった数歳離れているだけで見えている世界が全然違うんだなと痛感しています。
たしかに、クライアントや業界への理解が深ければ深いほど、わかりやすく寄り添える面は多いと思います。けれども、小島さんが話していたように「深すぎる、近すぎることで見えなくなることもある」はずで。そういうところを若手が補って、クライアントのより良いコミュニケーションに寄与できるように、土台を整えていきたいです。
小島:私は具体的に「これ!」という目標はまだ見えていないのですが、「もっとさまざまな生活者の心理、行動原理、望む体験を知りたい」という気持ちが大きいです。リアルなイベントの企画などに携われると、そばで生活者の顔や感情が確認できて、個人的なモチベーションアップにもつながりそうだなと感じています。
日常的な業務の面では、もっとクライアントのデータ管理や情報共有の効率化を推し進められるよう、ツールなどの知識と提案力を身に付けていきたいです。「変えたほうが確実にいいとはわかっているのに、心理的なハードルが高くてなかなか手がつけられない」という状態にあるクライアントは多いなと感じています。その痛みに共感を示しつつ、より良い未来のためにポジティブな気持ちで踏み出せるよう、丁寧な説明とコミュニケーションを取っていけるディレクターであれればと思っています。
山口:僕は大きなスポーツ大会や国際的なイベントなど、大規模プロジェクトに関わっていきたいです!若手だからといって萎縮せずに、自分の成長機会につながるようなチャレンジにはどんどんコミットしていきたいと思います。
大きな案件になればなるほど、クライアントの長期的な望みをくみ取って、俯瞰(ふかん)的にブランドコミュニケーションを組み立てていく視座が必要になってくると思います。将来的には、企業の今後100年を支えるようなプロジェクトに上流から関わって貢献できるような仕事人になりたいので、そのためにも貪欲に知識と経験をストックしていく所存です。
肥沼:僕も山口さんと同じく、ブランドコミュニケーションの根幹をディレクションしていけるような案件を任されるようになりたいなと思っています。そのためにも、もっといろいろなプロジェクトに自分から参加していって、攻めた提案をしていきたいなと感じています。
DCDに依頼をするクライアントの思惑には「大きくて歴史のある会社に頼りたい」という気持ちがあると思うんですよね。それは「守るべきところを確実に抑えてくる」と言い換えられるのかなと。ただ、社会もユーザーも目まぐるしく変化している中で、守りの姿勢ばかりでは最適なコミュニケーションにはならないはずです。

提案の攻めと守りのバランスを取るために、誰かがより攻めた、真新しさのある視点を現場に供給し続けるのが必要で、それは若手である僕らが担う役割だと感じています。クライアントのために、正しく「攻め」の視点を提供できるように、たゆまずインプットと実践を繰り返していきたいです。
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