パーソナライゼーションイズジャック:マーケティング成功の切り札とは?

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「コンテンツイズキング」「コンテクストイズクイーン」という言葉をご存じでしょうか?これは、マーケティングの基本概念を表し、成功の鍵を握る重要な考え方です。

そして、変化する消費者の期待やマーケティングテクノロジーの進化を踏まえると、「パーソナライゼーションイズジャック」もまた、次に当てはまる概念と言えるのではないでしょうか。

本コラムでは、なぜパーソナライゼーションが「ジャック」なのか?を皮切りに、その重要性や実現するためのテクノロジー課題、そしてビジネスにもたらすベネフィットについて、海外での調査結果を引用しながら解説します。

1. なぜパーソナライゼーションがジャックなのか?

コンテンツ(キング)とは、顧客に提供する価値やメッセージそのものを指します。どんなに優れたコンテンツを作っても、それだけでは十分ではありません。重要なのは、コンテンツをどのタイミングで、どのような文脈で届けるかです。これがコンテクスト(クイーン)の役割であり、同じ情報でも、受け手の状況や環境によって響き方が大きく変わります。

しかし、優れたコンテンツと適切な文脈が揃っていても、それを顧客一人ひとりに最適化して届けなければ、本当の価値は生まれません。ここで重要になるのがパーソナライゼーション(ジャック)です。

パーソナライゼーションとは、顧客の好みや行動、現在の状況を分析し、最適なコンテンツを最適な文脈で提供することを意味します。例えば、過去に特定の商品を購入した顧客には、関連商品や特典を提案。さらに、現在の位置情報や時間帯に応じて最適なオファーを提示することも可能です。これにより、顧客の関心を引き、エンゲージメントやロイヤルティの向上につながります。

実際に、消費者の82%が、すべてのショッピング状況の少なくとも半分において、パーソナライズされた体験が最終的に購入するブランドに影響を与えると回答しています。(出典:Medallia , カスタマーエクスペリエンスのパーソナライズがビジネス成長を促進する方法 , 2023)

このデータが示すように、パーソナライゼーションは企業の売上成長に不可欠な戦略となっています。

次の章では、パーソナライゼーションの重要性を顧客視点のデータとともに詳しく掘り下げていきます。

2. パーソナライゼーションの重要性 ― 消費者の期待の進化

現代の消費者は、パーソナライズされた体験を常識的なものと考え、それを提供できる企業を選ぶ傾向が強まっています。


“ 消費者の4分の3以上(76%)は、パーソナライズされたコミュニケーションを受け取ることがブランド購入の検討を促す重要な要素であると回答し、78%はそのようなコンテンツによって再購入の可能性が高くなると回答しました。 ”

(出典:McKinsey&Company , The value of getting personalization right—or wrong—is multiplying , 2021)

一方で、パーソナライゼーションが不十分な場合、顧客の期待を裏切り、不信感や離脱を招くリスクがあります。競争が激化する市場において、顧客の期待に応えられない企業は、競争力を失いかねません。


“ 消費者の72%は、パーソナライズされたサービスを提供しないブランドの利用を止める ”

(出典:Twilio , 消費者はパーソナライズされていないサービスには心を動かされない , 2023 , 日本)

さらに、消費者の期待はますます高まり、オムニチャネルでの一貫性のある体験が求められています。


“ 複数のチャネルを利用する顧客は、単一のチャネルを利用する顧客の1.7倍の頻度で購入する。 ”

(出典:McKinsey&Company , What is omnichannel marketing? , 2022)

また、消費者の期待はもはや、属性データや過去の購買データにもとづいたパーソナライゼーションでは満たされません。顧客の「いま」に寄り添い、オムニチャネルで一貫した体験を提供できる企業が、顧客の支持を獲得し、競争優位性を確立することができるでしょう。

3. リアルタイムパーソナライゼーションを実現する3つのテクノロジー課題

顧客の「いま」に寄り添うリアルタイムパーソナライゼーションは、「キング(コンテンツ)」「クイーン(コンテクスト)」「ジャック(パーソナライゼーション)」の3つの領域のテクノロジー/データによって実現されます。ここでは、それぞれの領域における課題と解決策を解説します。

①パーソナライズド画像/動画の自動作成

パーソナライゼーション施策において、動画や画像は、もはや不可欠な要素です。Wyzowlの「Video Marketing Statistics 2023」によると、98%の人が製品やサービスについて詳しく知るために説明ビデオを視聴し、87%の人が動画を見て商品やサービスを購入することを決意したと回答しています。

こうした背景から、企業はより高度なパーソナライゼーションを実現するために、生成AIを活用したリアルタイムな画像・動画の生成を模索しています。

しかし、リアルタイムでの画像・動画生成には、コンプライアンスのリスクがあります。例えば、ある旅行会社の生成AIを活用したテストでは、ハワイの海を紹介するつもりが、誤ってメキシコの海の画像が表示されるという事態が発生しました。こうしたエラーは、ひとつ間違えばブランドへの信頼を損なうリスクとなります。

解決策は、承認済みアセット(部品)を事前にAIで生成し、それらをリアルタイムで組み合わせてパーソナライズする手法です。これにより、生成AIの効率性とコンプライアンス遵守を両立できます。

②コンテクストデータの活用

パーソナライゼーションを成功させるには、顧客の「いま」の状況を正しく把握することが重要です。購買履歴や行動履歴といった従来のデータに加え、時間・天候・位置情報・デバイスなど、リアルタイムのコンテクストデータを組み合わせることで、より的確なパーソナライズ体験が提供可能になります。


【事例:天候データを活用したパーソナライゼーション】
あるDCO(※)ツールを活用した日焼け止めのマーケティング施策では、位置情報と天候データを活用し、晴天が予測される地域の女性ユーザーに日焼け止め広告を配信。その結果、クリック率が大幅に向上しました。(Jivox)

  • 注釈DCO(Dynamic Creative Optimization)とは、ユーザーの属性や行動データ、状況データにもとづき、クリエイティブの画像、メッセージ、CTAなどをリアルタイムで最適化するソリューションです。


顧客の属性データや過去の購買データだけに頼るのではなく、「いま、この瞬間」の状況に応じたコンテンツを提供することが、エンゲージメントとコンバージョンを最大化する鍵となります。

③オムニチャネルパーソナライゼーション

パーソナライゼーションの効果を最大化するには、Web、アプリ、メール、広告など、すべてのチャネルで一貫した顧客体験を提供することが重要です。しかし、多くの企業では、チャネルごとに異なるシステムやデータを使用しているため、顧客体験が分断されるという課題があります。

例えば、広告メディアで「今日は朝晩冷え込む予報です。暖かく快適に過ごせる一着を選びませんか?」というメッセージと商品を見て興味を持ったのに、ECサイトでは単なる商品の仕様説明しか表示されていない。メッセージや商品画像が統一されていなければ、違和感を覚え、購買の後押しが弱くなるでしょう。

この課題に対して、JavaScriptを活用した共通の仕組みを導入し、Webベースのすべてのチャネルでリアルタイムに一貫したパーソナライゼーションを実施することが解決策の一例となります。この施策により、顧客の最新の行動データを即座に取得し、多くの接点で一貫性のある体験を提供できます。

従来、マーケターがこうした仕組みを構築するには技術的なハードルがありましたが、最新のツールでは、専門知識がなくても簡単に実行可能になってきています。今や、誰でも高度なパーソナライゼーションを実現できる時代となってきました。

高度なパーソナライゼーションを成功させるには、「コンテンツ」「コンテクスト」「オムニチャネル」の3つを統合的に進化させることが重要です。

  • 適切なクリエイティブ(画像・動画)を瞬時にパーソナライズできる環境を整えること
  • リアルタイムの顧客データ(コンテクスト)を活用し、その瞬間に最適なコンテンツを届けること
  • すべてのチャネルで一貫した体験を提供し、顧客の違和感や機会損失をなくすこと

この3つの施策を実行していくことで、パーソナライゼーションの効果は飛躍的に高まります。

つまり、企業が今取り組むべきことは、「クリエイティブ作成の自動化×コンテクストデータの活用×オムニチャネル統合」の3軸を一体として推進することです。これにより、コンバージョン率(CVR)の向上、顧客体験(CX)の向上と顧客生涯価値(LTV)の最大化、そしてマーケティングROIの改善につながります。

次の章では、これらのベネフィットについて説明します。

4. 高度なパーソナライゼーションがもたらすベネフィット

3つのテクノロジーを活用した高度なパーソナライゼーションを実行することで、具体的にどのようなビジネス成果が得られるのでしょうか。ここでは、主要な3つのベネフィットについて解説します。

①コンバージョン率(CVR)の向上

パーソナライゼーションの最も顕著な成果の一つが、CVRの向上です。適切な顧客に、最適なコンテンツを、最適なタイミングで届けることで、購買意欲を直接刺激し、CVRを改善できます。


【事例:ネスレのFacebook広告施策】
ネスレは、より多くの商品を手に取ってもらうことを目的に、朝・昼・夜の3つの時間帯に応じたおすすめ商品をFacebook広告で配信。その結果、CVRが32%向上しました。(Jivox)

このように、「誰に」「何を」「いつ届けるか」をパーソナライズすることで、マーケティング施策の効果を改善できるのです。

②顧客体験(CX)の向上と顧客生涯価値(LTV)の最大化

高度なパーソナライゼーションを提供することで、顧客の体験価値が向上し、長期的な関係性の強化につながります。CXが向上すると、ブランドへの信頼が高まり、推奨度やロイヤルティが向上します。その結果、LTVの最大化が期待できます。


“ 77%の消費者がパーソナライズされたサービスはブランド(企業)へのロイヤルティを高めると回答 ”

(出典:Twilio , リアルタイムのパーソナライズにより、顧客生涯価値が高まる , 2023 , 日本)

このように、個別最適化された体験を提供することで、顧客のブランドへの愛着を高め、長期的な収益基盤を強化できます。

③マーケティングROIの改善

高度なパーソナライゼーションは、売上向上だけでなく、マーケティングの効率性を高め、ROIの最大化に貢献します。ROI改善のポイントは、大きく3つあります。

1つ目は、業務の効率化によるコスト削減です。
AIなどのテクノロジーを活用することで、クリエイティブ作成やデータ分析などの業務を自動化・最適化し、工数とコストを削減できます。特に、これらの業務を外部パートナーに依存している場合、内製化を進めることで大幅なコスト削減が期待できます。

2つ目は、ターゲティング精度の向上による広告費の最適化です。
AIを活用し、成果の高いクリエイティブパターンを自動で最適化することで、無駄な広告費を抑えながら、より効率的にゴール達成へ導くことができます。

3つ目は、顧客体験の向上による売上成長への貢献です。
高度なパーソナライゼーションを導入することで、顧客のエンゲージメントが高まり、CVRやLTVの向上につながります。結果として、単なるコスト削減だけでなく、収益面でもROIを最大化できます。

このように、パーソナライゼーションを高度に活用する企業は、未導入の企業と比較して、マーケティングROIの向上が期待できます。つまり、パーソナライゼーションの精度を高めることは、単なるマーケティング効率の向上にとどまらず、顧客体験価値を高め、収益成長を加速させる重要な戦略となるのです。


“ パーソナライゼーションマーケティングは、顧客獲得コストを最大50%削減し、収益を5〜15%増加させ、マーケティングROIを10〜30%向上させることができるという、企業にとって真のメリットがあります。 ”

(出典:McKinsey&Company , What is personalization? , 2023)

高度なパーソナライゼーションを導入することで、コンバージョン率の向上、顧客体験(CX)の改善とLTVの最大化、そしてマーケティングROIの向上という、売上・顧客満足・業務効率のすべてにおいてプラスの影響をもたらします。

次のまとめの章では、これらのベネフィットを最大化するために、企業が取り組むべき具体的なアクションについて解説します。

5. まとめ:パーソナライゼーションはマーケティングの「未来のあたりまえ」

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パーソナライゼーションは、もはや選択肢ではなく、企業の競争力を左右する必須戦略です。

✔ コンテンツ(キング)×コンテクスト(クイーン)×パーソナライゼーション(ジャック)がマーケティング成功の鍵。

✔ 画像・動画の自動作成、コンテクストデータの活用、オムニチャネル統合がパーソナライゼーションの成果を最大化するキーテクノロジー。

✔ 実行すれば、CVR向上・CX改善・LTV最大化・ROI向上という明確なビジネスインパクトを生み出せます。

では、企業は今、何をすべきでしょうか?

今すぐ取り組むべきアクション

■マーケティング施策にパーソナライゼーションを組み込む
・データドリブンなアプローチを強化し、個別最適化されたコンテンツを提供
・生成AIを活用し、コンプライアンスに配慮したクリエイティブ制作を導入

■コンテクストデータの活用を拡大する
・属性データや購買履歴だけでなく、天候・位置情報・デバイスなどのリアルタイムデータを活用

■オムニチャネルで一貫した顧客体験を提供する
・Web・アプリ・広告・メールなど、すべての接点で統一されたメッセージを届ける
・ツールを活用し、リアルタイムのパーソナライゼーションを実現

パーソナライゼーションは「当たり前」の時代へ

市場競争が激化する中、顧客は「自分に合った体験」を提供してくれるブランドを選ぶようになっています。貴社のマーケティングの現場に、ジャック(パーソナライゼーション)は存在しますか?今こそ、パーソナライゼーション戦略を開始し、加速させる時です。

人物の画像

株式会社DNPコミュニケーションデザイン 第4CXデザイン本部

小野 友剛/Tomotake Ono

マーケティングDXストラテジスト

外資系DWHベンダーや日本のSIerで営業・マーケティングDXを推進し、戦略立案からシステムの導入、実行までを経験。その後、DNPで事業部のマーケティングDX戦略の策定・実施、推進を担当し、DX革新の旗振り役も担う。全体戦略、ジャーニー策定、サイト企画、コンテンツ戦略など上流を中心に推進。CMS・MA・BI・マーケティングデータなどのツール選定・導入を行い、自社の経験を生かして顧客企業への営業も推進する。MAを活用したリードジェネレーション/ナーチャリングやインサイドセールス部門との連携による営業最適化も推進。

  • 注釈2025年3月時点の情報です。

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