Webマーケティングにおいて進む「クッキーレス」。ポストクッキー時代におけるWeb広告はどうあるべきか?

今、Web広告の世界が大きな転換期を迎えています。広告の効果測定などに不可欠な「Cookie(以下、クッキー)」の利用制限が強化され、これまで高いパフォーマンスを上げていた広告スキームが通用しなくなってきています。本記事では、クッキー規制の背景や、Web広告における具体的な影響、広告のクッキーレス化に向けた対策のポイントについて紹介します。
1. そもそも「クッキー」とは? なぜ規制されるの?
クッキーとは、Webサイトからユーザーのブラウザに送信されるテキスト情報です。ユーザーのWebサイトの閲覧履歴や設定情報などを保存するために使用されます。クッキーが保持されることによって、サイト訪問時に再ログインが不要になるなど、ユーザーのブラウジング体験を向上させます。また、ユーザーのWeb上での行動履歴を追跡し保存できる仕組みを持つことから、マーケティングを行う企業にはWeb広告の運用で広く利用されてきました。
クッキーは主に以下の2つの種類に分けられます。
- ファーストパーティークッキー:Webサイトの運営者が直接発行するもの
- サードパーティークッキー:広告配信会社など、第三者が発行するもの
とりわけ後者は、複数のWebサイトをまたぐユーザーの行動も追跡できる特性を持っています。このサードパーティークッキーのおかげで、ユーザーの興味・関心にもとづいた発信を行う「ターゲティング広告」が可能になっており、今や効果的な広告運用には不可欠な存在となっています。

しかし近年、個人情報保護の重要性が高まるにつれ、法律面・技術面双方からクッキーに対する規制が世界的に広がっています。例えばブラウザ側では2017年にApple社のWebブラウザ「Safari」でサードパーティークッキーの利用制限を始め、2019年にはMozilla社の「Firefox」もこの動きに追随しました。
ブラウザのシェアNo.1を誇るGoogle社の「Chrome」もクッキー廃止を検討していましたが、2024年7月にその計画の停止を発表しました。しかしながら、各国で個人情報関連の法整備・改定も進んでおり、クッキー規制はこれからさらに進んでいくことが見込まれます。
2. もう「運用型広告」には頼れない? Web広告におけるクッキー規制の影響
このクッキー規制によって、Web広告の在り方が大きく変わろうとしています。その影響はさまざまですが、大別すると次の2つにまとめられます。
①ターゲティング精度の低下
広告媒体では、クッキーによって取得したWebの行動情報からユーザーごとに興味関心を割り出し、それぞれにラベルを付けることで、ターゲティングを行っています。クッキー規制によってユーザーの行動追跡が困難になれば、「ターゲティング広告」「リターゲティング広告」の精度は大きく落ちることが予想されます。つまり、届けたい人たちに絞って広告を届けることが困難になります。
上記の変化は、現在のWeb広告の主流である「運用型広告」に深刻な影響を与えます。運用型広告は、広告の配信状況やユーザーの反応などを機械学習させ、予算配分や広告メニュー&クリエイティブ、ターゲットなどの条件に見合った最適な広告枠の調整・出稿を自動で行うシステムです。クッキー規制によって、これまでのWeb広告で最も成果を出していたこの手法が、根本から機能しにくくなってしまいます。
こうした状況を受け、広告担当者たちは新たな対応を迫られています。その向かうべき方向性のひとつが、クッキーを使わない新たなWeb広告手法(クッキーレス広告)を活用した広告スキームの構築です。
②CV(コンバージョン)計測の困難化
クッキー規制によって、商品を購入した人が「どの広告をクリックしたか」を正確に追跡することが難しくなります。本来であれば広告がきっかけで購入しているにもかかわらず、その数値を計測できないと、「どの広告訴求が購買に寄与したのか」がわからないままです。このような状態では、広告効果を向上させていくための改善策が立てにくくなってしまいます。

3. 「クッキーレス」でも広告効果を落とさない。そのための3つの視点
クッキーに依存しない新しい広告手法を構築するためには、どんな検討が必要になるのでしょうか? DNPコミュニケーションデザイン(以下、DCD)では、Web広告における「クッキーレス」に対応するために、重要なポイントを3つに定め、それぞれに適したソリューションを提供しています。
①「共通ID」を活用し、高精度のターゲティングを維持
広告成果を高く保つには、クッキーレスの環境下でもターゲティングの精度を落とさないようなスキームの構築が重要です。 今、クッキーに代わるものとして注目されているのが「共通ID」です。共通IDは、ユーザーのプライバシーに配慮しつつも、従来のサードパーティークッキーのような機能を持つ識別子です。
共通IDには、ユーザーが同意して提供したメールアドレスなどにもとづいて生成される「確定ID」、ユーザーのIPアドレスやアクセス履歴などから個人は特定しないものの類似性が高いと判断される「推定ID」の2種類があり、これらを用いたターゲティング広告が新しいサービスとして出てきています。
確定IDを活用したソリューションを提供している事例としては、Vatic AI社(※)のサービスが挙げられます。このサービスでは、ユーザーが会員サイトなどを利用する際に、広告用途での利用に同意して個人の属性を提供した場合、その属性情報を暗号化して確定IDを作成します。そして、属性情報からWebサイトで検索されやすいキーワードを分析し、類似の属性を持つコホート(ID群)を抽出。それを広告主が設定した製品・商品に適した検索キーワードと照らし合わせることで、親和性が高いコホートのみに広告表示を行い、効果の高いターゲティングを実現していきます。
- 注釈Vatic AI社:独自のデジタル広告配信ソリューションを開発・提供するシンガポールの企業。詳しくはこちら。

推定IDを活用したソリューションを提供している事例としては、Lotame社(※)のサービスが挙げられます。このサービスでは、Lotame社のパートナーサイトに設置した独自タグにより、許諾済みの訪問ユーザーのデバイス利用状況や、Web閲覧履歴、位置情報などを収集し、個人を特定しない独自の仮想ID(推定ID)を付与しています。それらはAIを活用することにより、興味関心に関わるさまざまな要素を加え精度の高いものになっています。これをDSP(※)と連携させることで、サードパーティークッキーが機能しない状況下でも、精度の高いターゲティング広告の配信や来訪ユーザーの解析が可能になります。
- 注釈Lotame社:顧客データなどに多様なデータを組み合わせる“データエンリッチメントソリューション”を世界中の企業に提供するアメリカのグローバルリーディングカンパニー。詳しくはこちら。
- 注釈 DSP:Demand-Side Platformの略。広告主や広告代理店が広告効果を最大化するために利用するプラットフォームのこと。

②広告効果の測定方法の再整備:CAPI(コンバージョンAPI)
広告戦略を立て、運用を通じて成果を高めていくためには「正確な効果測定」は不可欠な要素です。クッキー規制強化に伴って、すでにユーザーの利用端末や環境によって、一部CV計測ができず欠損してしまっている状況があります。これにより広告媒体の機械学習が働かず、広告効果が著しく低下してしまいます。この重大な影響をどれだけ抑えられるかが重要なポイントになるでしょう。
そこで注目されているのがCAPI(コンバージョンAPI)です。これは、広告主自身のサーバーで発行したイベントデータを直接広告サーバーに送信する仕組みです。 Webサイトやアプリケーションで発生するユーザーの登録情報(メールアドレスや電話番号等)を識別子として暗号化し、GoogleやFacebookなどの広告媒体プラットフォームが持つ情報と照合してユーザーを特定することで、広告効果の計測を可能にしています。
例えば、デジタルマーケティング企業のKIYONO社(※)では、CAPIを導入したデータ解析と広告運用によってCV数の欠損を補い、プランニングの基盤となる効果測定の正確性を向上させるソリューションを提供しています。
- 注釈KIYONO社:データを活用した各種デジタルマーケティングの活用支援を行う企業。「戦略設計」「システム構築」「運用」を一気通貫で支援できる体制を強みとしている。詳しくはこちら。

③レポーティングの方向転換
計測の方法が変われば、指標をどこに置くかなど、レポートの在り方も再検討が必要です。一例として先ほど紹介したKIYONO社では、Web上のコンバージョンと営業フェーズの進捗がひもづかないことを課題とし、従来のレポートではあまり扱われることのなかったROI(※)を広告効果の指標として可視化する「広告効果ちゃんとみえ〜る」を提供しています。こちらは個別での開発となり、お客様のもつデータを整理・統合し、どこにCVを据えるかなどを決める必要がありますが、キャンペーンや広告グループ、ターゲティング、クリエイティブ別に、成約数、LTV(顧客生涯価値)にどれだけ貢献したかの最終ROIの計測やROAS(※)の算出が可能になります。
- 注釈 ROI(Return on Investment):かけた広告費に対して得られた利益を%で表したもの
- 注釈 ROAS(Return On Advertising Spend):広告費に対して得られた売上を%で表したもの
4. DCDだからできること
これからのWeb広告戦略は、次々と更新される新しいルールとツールをうまく活用しながら、プライバシー保護と費用対効果向上の両立をめざすものとなるでしょう。DNPでは、上記で紹介したVatic AI社やLotame社などのサービスを日本で初めて導入し、共通IDを用いた精度の高いターゲティングスキームを開発しています。また、2024年3月に、KIYONO社とデジタルマーケティング支援サービス拡大に向けて資本業務提携をしています。DNPでは、このように社会の変化へ柔軟に対応し、常に新しいソリューションを提供できる体制を整えています。
一方で、DNPグループであるDCDでは、こうしたツールを活用したWeb広告媒体の運用を行うとともに、広告のクリエイティブの質の向上も重要だと考えています。質の高いクリエイティブとは、ニーズのある人に「適切なコンテンツ」がちゃんと「伝わる形」で届くことだと考えています。内容や訴求ポイントが適切に伝わる質の高い広告は生活者にとっても歓迎され、その結果が商品・ブランド利用という成果につながるのではないでしょうか。また、行動デザインの考え方を取り入れたソリューション(※)では、行動を促す効果的なアウトプットを提案しています。
- 注釈行動デザインの考えを取り入れたソリューション事例について、詳しくはこちら。
DCDではWeb広告の運営とクリエイティブの両方で、広告主にとっても生活者にとってもwin-winなコミュニケーションの構築をサポートいたします。

株式会社DNPコミュニケーションデザイン 西日本CXデザイン本部
鈴木 秀和 /Hidekazu Suzuki
デジタルマーケティングプランナー
入社以来、企業の広告・プロモーションなど販促支援における企画制作ディレクションを経験。2019年ごろからデジタル領域へ軸足を置き、流通・金融を中心とした企業のデジタルマーケティングに携わり、オフライン/オンラインを融合した統合的なメディアプランニングや広告クリエイティブ制作、Web広告、LINE/SNS運用に関する経験と知識を深める。
得意先の課題抽出から解決に向けた包括的なプラン策定~デジタルを活用した「継続的に成果を高める」運用支援を強みとして、お客様に感動体験を提供する「DX for CX」を推進中。趣味はゴルフと植物を育てること。いずれもありたい姿にむけて地道に積み上げていくプロセスが好き。
- 注釈2025年3月時点の情報です。