「対話の種まき」から始まる組織風土改革 ― 大和ハウス工業様「エンゲージメントブック」活用事例

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▼語り手プロフィール
大和ハウス工業株式会社
サステナビリティ統括部 価値共創グループ
中山 重雄様/Shigeo Nakayama(中)、宮川 真帆様/Maho Miyakawa(左)

株式会社DNPコミュニケーションデザイン
CBデザイン本部
桜田 晶子/Akiko Sakurada(右)

多くの企業が直面する若手社員の定着率の低さや社員間のコミュニケーション不足。改善策として「エンゲージメントサーベイを実施したけれど、その後の施策をどう進めればいいのか」という課題を持つ企業は少なくありません。

大和ハウス工業株式会社(以下、大和ハウス工業)様では、社員一人ひとりが働きがいを感じられる組織風土づくりをめざして「エンゲージメントブック」を作成。この冊子は、社員同士の相互理解と組織のチーム力向上のために活用されています。本記事では、エンゲージメントブックの活用推進を担う大和ハウス工業の中山様、宮川様と、冊子の制作に携わったDNPコミュニケーションデザイン(以下、DCD)の桜田が、企画・制作時のこだわりや社内での活用方法などについて語ります。

1. エンゲージメント向上への課題 ― 個人の集合体から真のチームへ

エンゲージメントブックを制作しようと思った背景には、どのような課題感があったのでしょうか?

中山様:大きな課題感としてあったのは、直近のエンゲージメントサーベイの結果から、特に若手社員の働きがいややりがいの低さが目立ったことです。このような状態が続くと「仕事での成果が出る前に離職してしまう」といった可能性が高まるため、そこに何かしらのアプローチが必要だと思ったのがきっかけです。

宮川様:当社では創業100周年にむけて「“将来の夢”(※)を実現できるような組織風土に変えていこう」という機運も高まっていました。当社は、短期的な目標に向かって、個々がそれぞれ努力して結果を出すことにはたけていますが、その一方で、大きな目標に向けて中長期的な視点で物事を捉えたり、チームプレーで協力をして成果を上げたりする仕事の仕方には不慣れな側面がありました。

昨今は時代の移り変わりも激しく、世の中の情勢が複雑化しており、私たちが手がける案件も大型化・多様化しています。そんな環境下で、私たちはこれまで培ってきた個の力を結集させ、チームで互いの強みを生かし合うビジネススタイルへの転換が必要だと感じています。

こうした背景から、社員同士がもっと対話をして、お互いの価値観や考え方を理解する機会を作るためのツールとして「エンゲージメントブック」の制作を決めました。

  • 注釈大和ハウス工業様では、自社のパーパスを“将来の夢”と独自の表現をしています。

エンゲージメントブックの制作パートナーをDCDに決めた理由についてお聞かせください。

宮川様:コンペでは他社もさまざまな提案をしてくれていたのですが、DCDが最も私たちの描いていた理想に寄り添ってくれたように感じました。「どうやったらこのエンゲージメントブックが、めざす組織づくりに寄与するものになるのか?」という点を追求して、制作後の活用方法まで考慮して全体の構成などを提案してくれました。完成形がイメージしやすく、最初に提案してもらったプランからその後も大きなズレはなかったおかげで、私たちも本来注力すべきインナーブランディングの施策実行に集中できました。それくらい、精度の高い提案を初期段階でしてもらえたのが、とても助かりました。

大和ハウス工業の宮川真帆様

2. 対話を促す「取っつきやすさ」へのこだわり

エンゲージメントブックの企画段階で、クライアントの課題解決のために、特にポイントになると思われた部分はありますか?

桜田:最も大事にしたのは、社員にとっての「取っつきやすさ」です。担当者の皆さんはとても勉強家で、さまざまな啓発本や資料を読み込みながら、冊子に盛り込みたい内容をたくさんご提案いただきました。

ただ、社員の中には普段から啓発本などを読む習慣のない人たちもいます。そういう方々にファーストインプレッションで「難しそう」「面倒くさそう」と思われないよう、読みやすく、面白みを感じてもらえるような内容、デザインにすることに注力しました。

具体的には、冊子は6章にテーマ分けをして、1章ごとのボリュームを短時間で負担感なく読み切れる長さに調整しています。それぞれの章は「導入マンガ、読んで学ぶパート、自分で考えて書き込むパート、その他の関連情報」という4つの要素で流れをつくり、「読んで浮かんだ自らの考えを周りの仲間と話し合うこと」を促すような構成に仕立てました。

提案時の資料より「各テーマの流れ」

また、大和ハウス工業様からの「RPG(ロールプレーイングゲーム)のような要素を入れられないか?」というご意見を生かして、冊子冒頭に、社員一人ひとりが自身の特性や価値観を「戦士」「僧侶」「魔法使い」といったキャラクターから選び、冊子の世界観に没入できるプロローグを設けました。そして、冊子全体のストーリーを「自分とタイプの違った仲間たちと一緒に冒険をしながら成長していく」というRPG仕立ての世界観で統一しました。これには、「RPGではさまざまなキャラクターの強みを生かさないとボスは倒せない。それは仕事でも同じようなことが言え、それぞれの個性や強みを発揮しながらチームプレーで成果を上げる仕事の仕方」を浸透させていこう、という大和ハウス工業様の狙いもありました。

DCDの桜田晶子

具体的な冊子の制作段階で、特にクオリティにこだわった部分はどんなところでしょうか?

桜田:載せる要素についての要望はたくさんあったので、それらを1冊の本としてどう統一感を持たせつつまとめるかにこだわりましたね。土台の段階でしっかり合意形成をするのが重要だと感じたので、構成案の検討に時間をかけて、何度も打ち合わせを実施しました。

大和ハウス工業様の要望はしっかり反映しつつも、読者にとってのわかりやすさ、全体のストーリーの中での整合性を踏まえて、いただいたご意見・ご要望にはない内容や新たな意見も率直に伝えました。担当者の皆様全員がおのおのの主張をしっかりと出し切ってくれたからこそ、さまざまな考えや価値観を包摂しつつも、最終的にすごく「大和ハウス工業らしさ」が詰まった冊子になったと感じています。

DCDの制作チームや桜田の仕事ぶりについて、特に評価できるポイント、依頼してよかったと思えた瞬間などがあれば、ぜひ教えてください。

中山様:私たちの要望を真摯(しんし)にくみ取りつつも、言われた通りにするのではなく、もっとよくなる可能性を常に探ってくれたのが印象的でした。時には私たちの潜在的なニーズを私たち以上に理解して「この内容は絶対載せた方がいい、このほうが大和ハウス工業のためになる」といった投げかけもしてくれて、大事な気づきを得られることが多かったです。

大和ハウス工業の中山重雄様

宮川様:「エンゲージメントを高める」という目的はとても抽象度が高いし、明確な正解があるわけではありません。具体的なイメージが見えにくい中で、桜田さんは「こういう状態をめざすには、こういう内容が必要なのでは?」「その意図をくむとしたら、こういうデザインで見せたらどうか?」と言葉を尽くしてくれました。私たちの思いやニーズを傾聴する姿勢と、わかりやすく説明してくれる言語化力に、とても助けられたと感じています。

大和ハウス工業「ENGAGEMENT BOOK - 幸せと夢を探す冒険の旅へ!」165ページ/PDFをオンラインで活用

3. エンゲージメントブックの活用法 ― 朝礼から派生した独自の展開も

エンゲージメントブックが完成してから、社内ではどのように活用されているのでしょうか?

中山様:私たちが冊子の使い方をレクチャーしながら、部署ごとにエンゲージメントブックを読み合わせして、その後に対話する時間を作ってもらっています。チームによって実施の頻度やタイミングは自由に設定してもらっていますが、およそ週に1度くらいのペースで、勤務始めの時間で取り組んでいるケースが多いですね。

大和ハウス工業様の社内で活用されている様子

宮川様:エンゲージメントブックは全グループ会社で展開していて、その中で冊子のコンテンツを用いた独自の展開も生まれています。とあるグループ会社では、社内報で役員が新年あいさつをする記事で、各役員がエンゲージメントブックの診断キャラクターのどれにあたるかを公開して、社員とのコミュニケーションに役立てていました。

最近では「地域の子どもたちと交流を持つ際に、エンゲージメントブック内のコンテンツを活用したい」といった相談もあり、エンゲージメントを高めるという枠組みから広がった新たな視点での活用に驚きました。私たちの部署としても、冊子を配って終わりではなく、継続的な活用を促すためにさまざまな施策を行っています。

また、社内イントラネット内で冊子の利用状況のアンケートを収集・公開して社員同士のコミュニケーションのきっかけをつくったり、冊子内の一部のコンテンツを切り出して掲載するなどして、エンゲージメントブックのタッチポイントを増やしています。

社内で実施されたキャラクターアンケート。戦士(情熱・挑戦)を選んだ人が多いのではという予想に反し、僧侶(誠実・本質)を選んだ人が多いことがわかった。

エンゲージメントブックの活用が始まってから、社内にはどのような変化が現れているでしょうか?

中山様:最も大きな変化は、お互いのことを知る機会が増えたことです。エンゲージメントブックの中では、個人の過去、未来の目標などを共有する項目があり、それが同僚の価値観や考え方などを知るきっかけとなりました。自分のチームの肌感ですが、お互いのパーソナリティの理解が深まったことで、日頃の何気ないコミュニケーション量が増え、業務上のやり取りも円滑になっています。

宮川様:先日、ある事業所の社会貢献活動に参加した際の懇親会で、入社2~3年目の若手社員から「私たち、エンゲージメントブックをめちゃくちゃ活用してます。」と声をかけられて、とてもうれしかったですね。彼らに効果を聞くと、「職場の雰囲気が確実に良くなった」「同僚や上司の人となりがわかって、コミュニケーションが柔らかくなった」という感想を聞かせてくれました。

こうした定性面での効果は、現状でも各所からのリアクションで相当な手応えがあります。これから実施するエンゲージメントサーベイの結果を見て、定量面での効果もしっかりと確認しつつ、今後の活用施策の方針を検討していきたいと思っています。

4. エンゲージメントブックで、組織を変える。対話の種まきを

今後さらなる課題解決のために、エンゲージメントブックをどのような形で活用していこうと考えていますか?

中山様:現状では全社的に取り組んでもらえているものの、かなり積極的に取り組んでもらっているチームと、そうでもないチームの差があります。影響力の強い役員のような方々を巻き込む形で活用のバリエーションを示していけると、より社内への浸透度が高まるのではないかと思っています。

加えて、エンゲージメントブックの取組みは、リクルーティングにもポジティブな影響を与えるはずです。取組みを良い形で対外的に知ってもらうための方法も、今後合わせて考えていきたいと思います。

宮川様:現状はチーム単位での読み合わせがメインですが、もっとつながりを広げていきたい気持ちがあります。イントラネットなどを活用しながら、エンゲージメントブックをきっかけに、より広範囲でフラットに多くの社員同士がつながれるような施策を展開したいですね。

現在、大和ハウス工業にはグループ会社を含めて約5万人(※)の社員がいます。それぞれの社員が独自に頑張るのではなく、チームとして有機的につながって、一人ひとりが5万人分の知恵や経験値を糧に、パワーを発揮できるようになったら、個人としても会社としても大きく成長できるはずです。そういう状態をめざして、エンゲージメントブックをうまく生かしていきたいと考えています。

  • 注釈2025年3月末時点

どのような課題を抱えている企業に、こうしたエンゲージメントブックを用いた取組みを勧めたいと思われますか?

取材時の様子

中山様:社内のコミュニケーションをもっと円滑にしたいが、なかなかきっかけがつかめない…といった課題を感じている企業には、とても有効だと思います。もちろん、すでに社員同士のコミュニケーションが円滑な会社でも、チームとしてさらなる高みをめざすためのツールとしても活用できるはずです。日常で自分のことを話すのは恥ずかしいと感じる人も多いようですが、エンゲージメントブックのようなツールがきっかけとしてあると話しやすくなります。

宮川様:とりわけ、世代間や階層間をつなぐ交流に役立つ印象があります。世代間や階層間でコミュニケーションが不足すると、心理的安全性の低下につながりやすいです。当社は幅広い年齢層がいますが、エンゲージメントブックを通じてそこのコミュニケーションが増えたのは、大きな収穫だと感じています。

桜田:「エンゲージメントサーベイを導入してはいるけれど、そのデータをどう生かしたらいいのかわからない」というところで悩んでいる企業に、特におすすめしたいです。組織課題に対するアプローチのひとつとして、エンゲージメントブックが効く場面は多様にあると思います。
会社によって組織風土が異なるので、内容の調整は必ず必要です。ただ、その会社の実情に合わせて内容をアレンジすることができれば、大和ハウス工業様のように活用幅が広く、とても効果的なツールになり得るんだなと、本件を通してとても勉強させていただきました。エンゲージメント施策の手の付け所に悩んでいる方がいたら、ぜひお気軽に相談してほしいと思います。

  • 注釈2025年5月時点の情報です。

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