「子育て総合支援企業」としてのブランド価値を高める ―
アカチャンホンポが実践するリテールメディア戦略

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▼語り手プロフィール
株式会社DNPコミュニケーションデザイン
関西CXデザイン本部
部長 上山 博司/Hiroshi Ueyama

小売業界において急速に拡大する「リテールメディア」。店舗というリアルな場と、そこに蓄積される顧客データを活用した新しい収益源として期待が高まっています。しかし、単に広告媒体としての枠を販売するだけでは、真の価値は生まれません。企業のブランド価値や顧客体験と一貫性のある文脈設計こそが、成功の鍵を握っているのです。
本記事では、株式会社赤ちゃん本舗(以下、赤ちゃん本舗)様が打ち出す「アカチャンホンポのリテールメディア戦略(※)」を支援する、株式会社DNPコミュニケーションデザイン(以下、DCD)関西CXデザイン本部の上山博司が、リテールメディアの効果的な活用法と、DCDならではのアプローチについて語ります。

  • 注釈赤ちゃん本舗様では、店舗や販売におけるブランド表記を「アカチャンホンポ」としています

1. 設計の基本は「ミッション・ビジョン・バリュー」と連動させること

「アカチャンホンポのリテールメディア戦略」とは、どのようなものなのでしょうか?

単に広告枠を販売する収益源としてではなく、「子育て総合支援」という企業の根幹にあるミッション・ビジョン・バリュー(以下、MVV)と連動させた形で設計しています。リテールメディアの本質的な価値は、ブランド力のある売り場をメディア化することによって、第二のエンジンとして新しい収入源を確立することにあります。

一方で、企業理念に即した「文脈性(コンテクスト)」の設計が不可欠です。文脈性がないと、店舗は関連性の低い広告だらけの無秩序な空間になり、企業が本来持っているブランドイメージを毀損(きそん)することになりかねません。

だからこそ、企業のMVVから外れないよう、常に訴求内容を吟味しながら「アカチャンホンポだからこそできる切り口」の広告コンテンツを展開することが重要です。こうした姿勢を守りつつ、顧客にとって有益な情報を提供することで「リテールメディアによる子育て総合支援」の実現をめざしています。

新たな収益源という視点だけではない、リテールメディアによる子育て総合支援の図

「子育て総合支援」とは、具体的に何をするのでしょうか?

妊娠中の方、3歳以下の子どもを持つ家庭を主なターゲットとして、お客様の出産・子育てを支援する情報源としての役割も担っています。ターゲットに対して、店舗スタッフが勧めたいと思えるような広告主の商品やサービスを基本として、出産・子育ての中で、どんなメリットがあるのかを丁寧に情報提供を行うことで、顧客との信頼関係を築く狙いもあります。このように、アカチャンホンポのリテールメディア戦略は、リテールマーケティングとブランディングを両立させているのが大きな特徴です。

アカチャンホンポ リテールメディアの特徴

①ターゲット層の明確化
妊娠中の方や3歳以下の子どもを持つ家庭が主なターゲット。
広告主の選定においても、これらの顧客層に関連する商品やサービスに重点を置いています。

②顧客体験・顧客視点の重視
アカチャンホンポは、子育て総合支援の観点で、お客様の生活に寄り添った情報提供を行うことで、ブランドの信頼性を高めています。

③店舗スタッフの推奨
アカチャンホンポのリテールメディアは、店舗スタッフがお勧めしたいと感じる広告主の商品やサービス、キャンペーンであることをひとつの指針としており、店舗での声掛けを強みとしています。

リテールメディアの対象となる媒体は?

比較的新しい概念で発展途上の部分もありますが、大きく「オフライン」と「オンライン」の2軸で捉えられます。オフラインについては、店舗という実空間で展開できるメディア全般を指します。POPやデジタルサイネージ、手配りチラシや店員による直接的なコミュニケーションも含まれます。

オンラインについては、小売企業が持つ自社の顧客データ(ファーストパーティーデータ)とPOSデータなどを活用している媒体が含まれます。自社のオフィシャルサイトやECサイト、アプリなどが対象となります。

赤ちゃん本舗様では、オンラインとオフライン双方を包括的に捉え、ひとつのキャンペーンに対してリテールメディア全体を戦略的に活用することで、より高い訴求効果を生み出しています。

アカチャンホンポのリテールメディア例

2. 顧客体験を高めるための統合的なメディア運用を

アカチャンホンポのリテールメディアで、DCDはどのような業務を担っているのでしょうか?

リテールメディアの事業設計から参画して、全体の戦略やコンセプト提案などを行いました。その後は広告出稿の可否を判断する定例会議に参加し、赤ちゃん本舗様の「子育て総合支援」というブランドイメージに収まっているかどうかを一緒に検討しています。

広告枠の価格検討や、出稿が決まった企業とともにコンテンツの方向性を決め、実際に展開するクリエイティブの制作、効果測定まで担当しています。主幹代理店とマーケティング会社と企画制作会社を兼ねているような立場で、リテールメディアの運用の上流から下流まで、ほぼすべてのプロセスに関わっているのが特徴です。

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アカチャンホンポのリテールメディアでは、具体的にどのような広告施策を展開していますか?

チャイルドシートの販促では、店頭で実際に試せる体験スペースを設置し、それに合わせたPOPの設置やアカチャンホンポのSNSや店頭サイネージでの動画コンテンツ配信、関連イベントの開催など、さまざまなタッチポイントでデザインや文脈を統一させたプロモーションを行いました。大手の生活用品メーカーでも、このような多様なメディアでの広告企画を展開しています。

現状では、レジでのチラシ配布、店頭サイネージ広告、アカチャンホンポのアプリでのバナー広告、DSP広告のみといった単発の出稿がメインではあります。ただ、アカチャンホンポの顧客がたどるであろう体験(カスタマージャーニー)を踏まえ、リテールメディア全体で企業の発信したいメッセージを多角的に訴求する提案ができるのは、運用に深く関わっているDCDだからこそ。たしかな訴求効果を実感してもらうためにも、マルチメディア展開を前提とした施策を、積極的に勧めていきたいと考えています。

アカチャンホンポのメディアを活用したチャイルドシートメーカー様の製品プロモーション事例

3. 現場の共感は「お客様のため」という文脈性から生まれる

リテールメディアを本格的に運用し始めてから、どのような成果が上がっているのか教えてください。

先ほど紹介したチャイルドシートの販促後の効果検証では、POPやチラシなどからECサイトへの流入の増加が確認できています。さらに店頭でのサイネージ告知や店舗スタッフによる情報提供などの総合的な販促展開により、その効果を伸ばしています。

ただ、リアルな場を含めたマルチメディア展開をしているため、Webサイトのバナー広告のように「コンバージョンを測れば効果が可視化できる」という性質のものではありません。多角的な側面から、より精度の高い効果検証のプロセスを確立していくことが今後の課題です。

また、赤ちゃん本舗様の担当者からは「施策の実施において、店舗スタッフの協力が得られやすくなった」というポジティブな評価もいただいています。店頭での販促にはそこで働く人たちの協力が不可欠です。リテールメディアの運用方針にのっとり「本当にお客様にとって、ためになる情報を提供すること」を徹底しているからこそ、現場の理解を得られて、販促が円滑に実施できているのだと感じています。

4. 「量」と「質」の使い分け。あらゆるリテールメディアに可能性がある

リテールメディアの運用において、DCDだからこそ発揮できる介在価値とは、どのような点にあるのでしょうか?

私たちが提供できる本質的な価値は、クリエイティブ設計力とコミュニケーション設計の総合力にこそあります。DCDはリテールメディア全体のコンセプト・戦略設計ができるだけでなく、個別の施策やクリエイティブ、効果検証まで一貫して手がけられます。

たとえばデジタルサイネージでの広告検討をするにあたって、DNPグループ内で連携することで機器の導入や設置、ハードやソフトの設計、マーケティング支援、コンテンツの制作や配信・検証まで、すべて一括して担当できるのは、他社にはまねできない強みです。

アナログなチラシやポスター、デジタルのバナーや動画など、それぞれの領域に特化したプロフェッショナルの制作チームがいます。あらゆる顧客とのタッチポイントで、高品質なクリエイティブを届けられるからこそ、より総合的で効果の出やすい広告運用が可能なのです。

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これからリテールメディアの運用を検討している方々に、何かアドバイスをお願いします。

リテールメディアの活用においては、訴求ポイントが「量」と「質」とで異なってきます。店舗数や来店者数の多い大手チェーンは「量」の力を持っているので、比較的リテールメディアの活用はしやすいでしょう。

一方、赤ちゃん本舗様のようにそこまで来店者数は多くないものの、顧客の属性が明確な小売企業の場合は「質」の面を押し出すことで、リテールメディアに商機を見出せます。客層が明確だからこそ、そこにピンポイントで訴求したい企業にとっては、唯一無二の媒体になり得るのです。こうした観点を踏まえると、企業規模の大小に問わず、あらゆるリテールメディアは有力な発信元になる可能性があると思っています。

DCDはリテールメディアの立ち上げ初期から伴走し、コーポレートブランディングの観点をしっかりと押さえた上で、コンセプト設計から広告の制作、運用までのプロセス全体をサポートできます。早い段階からご相談いただければ、より効果的なリテールメディア戦略の構築をお手伝いできるはずです。ぜひ、お気軽にご相談ください。

  • 注釈2025年6月時点の情報です。

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