アジア圏 インバウンド・アウトバウンドのビジネス拡大に伴うソーシャルリスニング最前線

語り手の写真
▼語り手プロフィール
株式会社Zanroo Japan
取締役 佐藤 良 様/Ryo Satou(写真右)

株式会社DNPコミュニケーションデザイン
コンテンツDX本部
課長 林 将広/Masahiro Hayashi(写真左)

SNS上のユーザーの声を収集・分析し、市場のトレンドや自社ブランドの評価、競合動向などの理解につなげていく「ソーシャルリスニング」の重要性は、Webマーケティングにおいて、ここ数年でさらに高まりを見せています。とりわけ、日本よりもSNSでの情報閲覧・発信頻度が高い傾向にある東南アジア圏では、ソーシャルリスニングによって得た顧客インサイトを、素早く的確に商品開発や販促に生かしていくことが、売り上げに大きく寄与することがわかっています。

DNPコミュニケーションデザイン(以下、DCD)は現在、株式会社Zanroo Japan(以下、Zanroo Japan社)と販売連携し、SNS解析ツール「Zanroo Social Listening(以下、Zanroo)」を活用した企業のSNSマーケティング事業に注力しています。東南アジア圏のソーシャルリスニングに精通したZanroo Japan社とDCDが手を結ぶことで、どのような課題解決が可能になるのか。Zanroo Japan社・取締役の佐藤良様と、日本でのZanrooの運用全般を担うDCD コンテンツDX本部の林将広が語ります。

1. 重要性が増すSNS解析。東南アジア圏での旗手となったZanroo

SNS解析ツールZanrooとは、どのようなことができるサービスなのですか?

佐藤様:ZanrooはASEAN地区を中心に13カ国17言語(2017年11月現在)のSNSやブログなどのローカルメディアなどから、現地の生活者の発信内容を収集・解析するサービスです。

Zanrooは2008年にタイでスタートしたサービスだと伺っています。どのような課題感から立ち上げられたのでしょうか?

佐藤様:当時はGoogleなど大手の検索エンジンでタイ語がうまく使えなかったことから、2008年にタイ語専用の検索エンジンを開発してリリースしました。その後、大手の検索エンジンが徐々にタイ語にも対応するようになったため、事業の方向性を転換し、2013年に新サービスとしてSNS解析ツールZanrooをリリースしました。

SNSの発信を収集・解析するサービスに転換した理由は、そこに企業の大きなニーズがあると感じたからです。SNSのアクティブユーザーは、現在に至るまで世界で約30億人にも届かんとする勢いで増え続けており、企業のマーケティング活動においても、情報収集や拡散のための手段として欠かせないメディアになっています。

Zanroo Japan社 取締役の佐藤良様

そんなSNS上での自社および競合他社のサービス・プロダクト・キャンペーンの評判を分析すれば、ユーザーの理解が深まり、より効果的なSNSマーケティングの打ち手が考えられるはず……現在でも多くのマーケティング担当者がそう感じていることでしょう。

しかし、いざ分析をしようとしても、膨大な投稿をどのように収集・処理していけばよいかがわからず、なかなか手を出せていないケースが多いのではないかと思います。私たちはそんな企業の課題感に寄り添い、「効率よく、効果的なSNS分析がしたい」というニーズに応えるため、ソーシャルリスニングツールの提供を始めました。

2. 強みはテキスト解析の精度の高さ、スラングや絵文字までフォロー

Zanrooの競合優位性、他社に負けないポイントとは何でしょうか?

佐藤様:一番の強みは、テキストの認識精度が高いことです。たとえばタイ語は、文字の上下左右に発音記号が付記されるのですが、同じ文字でも発音記号の位置の違いによって意味が変わります。これを筆頭に、東南アジアの言語は英語と比べると総じて複雑で、内容の分析が難しいとされています。

Zanrooは東南アジアの主要な言語を認識できる独自の文字認識エンジンを開発、運用しています。このエンジンは中国語や韓国語、もちろん日本語にも対応しています。

また、私たちは各国に拠点を設立し、現地言語に精通したパートナーを置いていることも大きな強みです。彼らがいることで、地方メディアのWebページや現地民しか見ないような掲示板、レビューサイト、ブログまでリサーチの対象にできています。ある地域でしか使われていないような流行語やスラングなどの意味も把握してリサーチに反映することで、分析の正確性をさらに向上させています。

時事性の強いスラングなどを把握できていないと、どのような支障があるのでしょうか?

佐藤様:例を挙げるとするならば、日本語における「ヤバい」は、文脈によってポジティブにもネガティブにも意味が変わりますよね。商品の評価を分析する際にそうした語彙(ごい)に対する理解がないと、情報を大きく読み間違えてしまうリスクがあるのです。絵文字ひとつをとっても、国ごとにまったく異なる意味合いで使われていることもあるので、注意が必要です。そうしたリスクを最大限抑えるためにも、私たちは現地のパートナーに協力を仰ぎつつ、丁寧にリサーチを補完しています。

テキスト分析の精度のほかにも、特筆するべき強みはありますか?

佐藤様:TikTokの情報収集・分析も可能です。ソーシャルリスニングツールでTikTokと公式に連携できているのは現在Zanrooだけで、字幕の解析もできます。

加えて、生成AIを用いたレポーティング機能も充実しています。出力する言語も自由に選べるので、翻訳のコストもかかりません。特定のキーワードにおける簡易的なトレンド調査であれば、ものの数秒〜数十秒でプレゼンなどにも活用できるレベルのレポート作成が可能です。

ダッシュボードイメージ/マーケット概要レポート・メーカー比較
ダッシュボードのレポートをもとに制作した提案資料

3. DCDとの連携―施策の立案から制作、仮説検証をワンストップでサポート

Zanroo Japan社との連携において、DCDはどのような役割を担うのでしょうか?

林:DCDの役割は、大きく2つあります。1つは、ソーシャルリスニングの運用全般の代行です。リサーチするテーマに合わせてキーワードや調査範囲の設定、レポーティングの精度を上げるための調整などを行います。

もう1つは、新しい施策の立案と実行です。Zanrooで収集したデータを観察(Observe)し、そのレポーティングから適切な状況判断(Orient)と意思決定(Decide)を行い、行動(Act )へ移していく……というOODAループの思考法にもとづいた業務フローを迅速に構築した上で、施策に必要なクリエイティブもすべてDCDが制作していきます。

SNS解析ツールZanrooを活かしたDCDの事業展開について話すDCDの林 将広

Zanroo Japan社との協業が実現すると、DCDとしてクライアントに提案できることに、どのような幅が生まれるのでしょうか?

林:Zanroo Japan社との業務提携によって、ソーシャルリスニングから始まる一連の調査・立案・制作・運用・効果検証までをワンストップで提供できる体制が整いました。そのおかげで、クライアントのブランディングをさらに力強くサポートできるようになりました。

また、DCDにはクライアントのコーポレートコミュニケーションを多言語対応で支援する専門チームがあります(※)。対応できる言語は170言語と幅広く、国の垣根を越えたブランディングを効率よく仕掛けることが可能です。複数言語での販促コンテンツの制作にZanrooを取り入れれば、さらなる成果が期待できるでしょう。

DCDは単なる制作請負にとどまらない、コーポレートブランディングを意識した“コミュニケーションデザイン”を手がけるクリエイティブ集団だと自負しています。 Zanroo Japan社のリソースをうまく生かして、東南アジアにおけるSNSマーケティングのコンサルティングサービスを推進し、グローバル展開に注力するクライアントのさらなるサポートに務めていきたいと考えています。

4. あらゆるBtoC企業に。東南アジアへのブランド進出を力強くサポート

今後、Zanrooをどのような企業に活用してもらいたいと考えていますか?

林:日本語にも対応しているので、BtoC企業であれば業界を問わずどのようなクライアントでも、効果的に使ってもらえるはずです。

強いて言うならば、SNSマーケティングに積極的である「エンターテインメント、観光、美容、ファッション/アパレル」などに関わる企業で、こういったソーシャルリスニングシステムを導入されていないのであれば、ぜひご活用いただきたいですね。

たとえばエンターテインメント業界であれば、イベント後の感想のポジネガ分析をZanrooで行うことで、次回に向けた検討に活かすことができます。観光業界なら、海外旅行のパッケージを組む際にSNS上の観光地の評価を分析すれば、商品企画に大いに役立てられるでしょう。

また、東南アジアでBtoCビジネスを展開しており、現地でのブランディングや認知度向上施策などに課題感を持っている企業にも有効的だと思います。競合分析や各キャンペーンの反響の調査がしやすく、効率的な仮説検証、施策のアップデートにつなげられます。生活雑貨や衛生用品などを扱うメーカーが「自社の商品名とともにどういった言葉がつぶやかれているか」を調査してマーケティングに生かすことで、大きな成果を挙げている事例もあります。

佐藤様:タイをはじめとする東南アジアの諸国では、日本よりもSNSの口コミの影響力が確実に強いです。下手にコストをかけてマスメディアに広告を打つよりも、SNSマーケティングに注力したほうが成果が出るケースも少なくありません。これから東南アジア圏に新たにブランドを売り出していくならば、なおさらソーシャルリスニングは不可欠です。

日本と比較した東南アジア圏のソーシャルメディア活用状況

私たちは、東南アジア各国のSNSの現状に精通しています。ツールによる精度の高い分析はもちろんですが、ネイティブしか知り得ないようなカルチャーやトレンドまで加味した繊細なレポーティングができるのは、Zanrooだけです。東南アジアを中心としたSNSマーケティングにお困りであれば、ぜひ私たちに協力させていただけたらと思っています。

林:SNSの情報は忖度(そんたく)がなく、生活者のリアルなニーズや感情、要望をリアルタイムで知ることができる貴重なリソースです。ユーザーの属性や興味にもとづいて、調査するターゲット層を絞り込むことも容易ですし、いい点も悪い点も率直に述べられているからこそ、そこには改善やプロモーションのヒントが詰まっています。

しかし、SNSを有益なリソースとして生かすには、正確な調査・分析が不可欠です。言語の特性や時事性をしっかり抑えた上で、精緻なキーワード分析・ポジネガ分析をしていかないと、生活者の本音を誤解してしまいかねません。調査の精度が重要であるゆえに、私たちの存在意義があるのだと自負しています。

日本ではまだまだ海外圏のソーシャルリスニングに注力している企業は少ないです。だからこその商機もある、と感じています。これから世界に販売網を広げていきたいと考えている企業の皆様には、ぜひ一度、私たちができることを知っていただきたいです。そして、少しでも興味が湧いたら、気軽にご相談いただけたらと思っています。

  • 注釈2025年7月時点の情報です。

関連ページ