全国カタログ展・カタログ部門金賞受賞の舞台裏 ― 「らしさ」を追求したスイーツカタログ制作

▼語り手プロフィール
株式会社DNPコミュニケーションデザイン
西日本CXデザイン本部
川崎文生/Fumio Kawasaki

「カタログ」という情報媒体の力や魅力を広く知らしめることなどを目的に開催されている全国カタログ展。製版・印刷・加工技術およびデザイン的に優れている作品として、株式会社アデリー(以下、アデリー)様の「WITH SWEETS スイーツカタログ 2024-2025」がカタログ部門金賞を受賞しました。

このカタログ制作を担当したのが、DNPコミュニケーションデザイン(以下、DCD)西日本CXデザイン本部の川崎です。長きにわたるパートナーシップの中で培われた信頼関係と、妥協なき撮影・制作プロセスが引き出した、アデリー様の「らしさ」とは。本記事では、受賞したカタログの制作ストーリーを通じて、高品質なカタログ制作に必要な要素と、DCDだからこそ実現できるクリエイティブの真髄に迫ります。

1. 10年以上の信頼関係が生む、妥協なきクオリティへの追求

DCDが担当されているアデリー様のカタログについて、まずはどのようなものなのか教えてください。

アデリー様はスイーツを中心に商品開発からカタログ制作、物流、販売までを一貫して手掛けているギフトの総合プロデュースカンパニーです。DCDは2013年頃から、アデリー様のカタログ制作の一部を受託しており、今回受賞したカタログは一般消費者向けではなく、百貨店やギフトセット販売店など、法人のお得意先様やバイヤーに向けたBtoB向けですが、ギフトカタログなどBtoC向けのカタログも多く携わっています。

アデリー様は社内にデザイン部署をお持ちで、商品パッケージなどを主に内製されています。一方で、カタログなどページ数も多く、コンセプトをしっかりと立てて制作する必要があるものについては「クオリティを高めるため、その道のプロフェッショナルにお願いしたい」という意向から外注をされているという背景があります。ありがたいことに、DCDが関わったカタログなどの制作物については過去にも何度か全国カタログ展で受賞していて、それらを含めて高く評価していただいており、今日まで10年以上取引が続いています。

インタビューに答えるDCDの川崎

クライアントからは具体的にどのような点で評価されていると感じていますか?

一番は、先方が求める水準のクオリティを保ち続けていることだと自負しています。特に、カタログに掲載する写真やページのデザインにかける熱量を高く評価されています。

カタログでは取り扱うブランドや商品が多いので、それぞれの個性がしっかりと際立つように、ブランドごとにページ上で独自の世界観がしっかりと感じられるようなデザインを求められます。その上で、カタログ全体でアデリー様の「らしさ」も表現する必要があります。アデリー様のカタログの特徴として、ブランドごとに誌面全体を1枚写真で構成して、その上に商品やスペックを並べています。だからこそ、ページごとの写真の作り込みに相当なこだわりがあります。

こうした要求をクリアするためには、さまざまなデザインのレパートリーをつくるためのチームビルディング力、1冊を通して統一した世界観を保つ緻密なディレクション力などが不可欠です。一つひとつのブランドや商品が持つ世界観を尊重しつつ、皿や装飾物などの細かいスタイリングや照明まで細部にわたってこだわり、クライアントが持つ理想のイメージにできる限り近づける努力の積み重ねが、長きにわたってのご愛顧につながっているのかなと思っています。

全国カタログ展でカタログ部門金賞を受賞した「WITH SWEETS スイーツカタログ 2024-2025」

2. 「空飛ぶテーマパーク」 ― 新掲載商品から広がるコンセプト作り

全国カタログ展でカタログ部門金賞を受賞した「WITH SWEETS スイーツカタログ 2024-2025」のコンセプトは、どのような経緯で決まったのでしょうか?

「WITH SWEETS スイーツカタログ」制作のキックオフミーティングでは、前年の制作の振り返りを行ったのちに、初掲載になる商品の情報をいただいて、そこから冊子全体のコンセプトとして展開できる要素があるかを探っていきます。2024-2025年版では、「CHOCOTRIP」というブランドが新掲載商品として用意されていました。商品やパッケージのデザインがとても遊び心のあるものだったので、このブランドの世界観を軸にイメージを膨らませ、最終的に「空飛ぶテーマパーク」というコンセプトにすることが決まりました。

コンセプトが固まってからは、最も重要な表紙のテーマ決めに取りかかります。表紙のテーマは昨今のカタログデザインのトレンドなどを意識しながら「パステルパーティー」「メンフィススタイル」「レトロモダン」「ナチュラル」など、複数の方向性を用意しました。丁寧に議論を重ねた上で、表紙のテーマは「パステルパーティー」を基軸に、楽しい雰囲気を前面に出していくことになりました。

3. 撮影ラフの綿密なすり合わせと、現場での柔軟な対応力

受賞した「WITH SWEETS スイーツカタログ 2024-2025」で、特にこだわった部分はどこでしょうか?

いつものことながら、撮影に入る前の各ページイメージのすり合わせには、かなりの時間と労力を割いています。アデリー様は取扱いブランドに対する理解が深く、「このブランドの世界観なら食器は丸みがあった方がいい」「この小物の色味はもう少し明るい方がいい」といった細かな要望が入ります。それゆえに、ラフの段階でも商品や小物の配置、質感、色使いなどがしっかりと伝わるよう丁寧に作り込んで、要望やアイデアがあればその場で取り入れて調整をしながら、最終的なイメージの合意を形成していくプロセスを大切にしました。

撮影準備の資料:OKOME no KAORIのページでは、使用する食器を、袋やおかきのサイズを測りふさわしいものを選定

また、撮影現場でも最後までクライアントの希望を最大限くみ取れるように、さまざまな準備をして臨んでいます。このカタログの撮影はアデリー様の都合があわず、現地での立ち会いはできなかったため、当日は先方とテレビ会議をつないだ状態で撮影を行いました。撮影した商品画像はその場でページレイアウトにはめ込んで共有し、リアルタイムでフィードバックをもらい、配置や照明などの細かなチューニングをできるような体制にしました。

たとえば今回の表紙では風船を用いていますが、実際に撮影したイメージを見せたら「他の色味の風船も見せてほしい」というオーダーが入りました。長年ご一緒している経験則から、制作スタッフがあらかじめ風船の色のバリエーションや形状の違う複数の食器を現場に用意していたおかげで、細かな要望にもスムーズに対応ができました。

どんなにラフの段階で緻密にすり合わせても、実物を見なければつかめないイメージもあります。ただ、そこで「現場にはこれしかないので」と妥協はしたくない。できるだけクライアントの「もっとこうしたい」というこだわりに寄り添えるように、あらゆる手を尽くしています。

制作したカタログの評価はいかがでしたか?

アデリー様からは、特に表紙のデザインについて高評価をいただいています。担当者からは「最初の見開きとの流れで一体感があり、完成度が高い」と言ってもらえました。コンセプトの検討に時間をかけたことで、制作チーム側がクライアントと同じ気持ち、同じ目線に近づけたからこそだと感じています。アデリー様によると、カタログを手に取るユーザーからも「雰囲気が変わったね、新鮮でよかった」という声をもらっているそうで、その点もうれしく感じています。

全国カタログ展の受賞については、クライアントはもちろん、制作スタッフがとても喜んでくれたのが印象的でした。受賞の連絡をもらった時期がちょうど新しいカタログ制作の佳境だったのですが、この知らせでチーム全体のモチベーションが上がって、いい雰囲気で走り切れました。

4. 適材適所のチームだからこそ実現できる、手に取ってワクワクする1冊に

カタログ制作において、今後チャレンジしたいことはありますか?

今回の受賞を励みにしつつ、引き続き紙媒体だからこそ表現できる質感を大事にしながら、カタログ制作に向き合っていきたいと思っています。現在、ギフト業界では紙のカタログから電子ギフトなどデジタル媒体への転換が増えています。デジタルでの展開には「見たいものだけを抜粋できる」「申し込みがしやすい」といった利点はありますが、紙でしか出せない魅力もあります。1冊としてのストーリー性、手に取ってページをめくる時の紙の質感やワクワク感など、デジタルでは表現しきれない魅力があると思います。今後もそうした側面を追求していきたいと思っています。

カタログを手に話すDCDの川崎

今回のカタログを制作する上で、DCDだからこそ発揮できた強みとは何だったのでしょうか?

一番はチームビルディング力だと思っています。カメラマンやデザイナー、スタイリストの方々、そしてアデリー様の担当者が一丸となって取り組んでいるからこそ、いいものが作れている実感があります。

また、アデリー様の案件の制作スタッフは、DCDが委託しているデザイナーさんたちが中心となっています。ページごとに担当者が分かれてデザインしており、それを私がカタログ全体としての世界観がブレないよう取りまとめるような体制をとっています。それぞれのデザイナーさんが自らの得意領域や個性を存分に活かしてくれているからこそ、どのブランドのページも周りに埋もれない存在感のあるクオリティに仕上がっています。

カタログ制作で悩む多くの企業に向けて、DCDができることとは何でしょうか?

「現状の制作物に課題は感じているものの、具体的にどうしたらいいかはわからない」という状態から対話をして、解決策を導き出すお手伝いをすることを、私たちは得意としています。「いま作っているカタログ、もっとよくならないかな……」といった悩みをお持ちの方は、ぜひ当社に、一度相談してほしいと思います。きっと力になれるはずです。

  • 注釈2025年10月時点の情報です。

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