「視聴者目線」を貫く映像プロデューサー ― チームの化学反応で生まれる、ターゲットに刺さる映像体験

株式会社DNPコミュニケーションデザイン
CBデザイン本部
主幹企画員 猪越 健/Takeshi Inokoshi
DNPコミュニケーションデザイン(以下、DCD)では、企画・制作における、多くのコミュニケーションのプロが活躍しています。そうしたプロフェッショナルたちにスポットライトを当てる企画、題して「D-Professional」。今回は、BtoBを中心とした映像制作のエキスパートである映像プロデューサー 猪越健です。
【D-Professional】への7つの質問
1. 名前と社歴
コーポレートコミュニケーションを担う幅広い映像制作を経験
猪越健です。2001年にDNP映像センター(2016年にDCDに統合)に入社し、ずっと映像制作に携わってきました。現在に至るまで、Web用のプロモーション動画やCM制作、イベント映像、株主総会などで使用する事業活動の紹介映像や会社案内の映像、常設展示やイベントでの体験型インタラクティブ動画まで、さまざまな映像制作を担当しています。
入社して間もない頃は、クライアントとの打ち合わせで「DNPグループだし、印刷のことはもちろん知っているよね」という前提で話されて、あたふたすることも多かったですね(笑)。企業の印刷物に付随した映像の制作を依頼される機会が多く、そのおかげでコーポレートコミュニケーションやブランディングを担う、多岐にわたった映像制作の経験を積み重ねてこられました。
動画:DNP company introduction video(4:50)
猪越が手掛けた動画のひとつ/大日本印刷株式会社 Globalサイト掲載
2. 手掛けている業務
50名規模のチームから少数精鋭まで、臨機応変に立ち回るプロジェクトマネジメント
映像プロデューサーとして、プロジェクト全体のマネジメントを担っています。各プロセスの進行、チームビルディング、クオリティ管理が主な業務です。
具体的には、映像制作における企画、スタッフィング、出演者キャスティング、撮影、CG作成、編集、整音作業といった全工程を統括しています。映像制作は多くの人が関わってくるため、時には50名規模のチームをまとめることもあります。
予算的に少人数でやる場合は、台本を作ったり編集したりと、ディレクターのような実務も担当することも。全体を俯瞰(ふかん)しつつ、必要に応じて現場に入っていく、というのがプロデューサーとしての自分のスタンスです。

3. あなたの強みは?
「できない」と言わない姿勢と、常時稼働するシミュレーション思考
あまり意識したことはないのですが、これまで幅広い業種、さまざまなフォーマットの映像制作の経験を積んできたことは、自分の強みではないかと思います。豊富な経験があるからこそ、相手のニーズに合わせた柔軟な対応力はあると思います。いつも脳内で「こういう要望がきたら、これを提案しよう」というシミュレーションをしています。
仮に対応の難しいオーダーでも、別の切り口で何らかの解決策を提示できるよう、常に複数の策を用意するように心がけています。とにかく、クライアントの要望に対して第一声で「できない」とは言わない。それが自分の映像プロデューサーとしての存在意義だと思っています。
また、新しい技術や機材にアレルギーがないことも、強みかもしれません。映像はチームプレーで、各分野のプロが集まって作るものです。職人気質の人もいて、そういう方々の専門性を活かしつつ、新しい技術や機材を使ってみましょうと巻き込んでいけるのも、これまでの経験があってこそだと思います。
4. 譲れないこだわりは?
クライアントと「並走」する、目線を合わせたモノづくり
仕事全体のこだわりとして意識しているのは、クライアントと「並走」することです。「一緒に映像を作っている」という雰囲気をいかに醸成するかを、常に考えています。
クライアントの担当者も、映像に限らず「モノづくり」に情熱を持っている方々がたくさんいらっしゃいます。そんな相手が「映像制作って楽しい」「映像制作を通じて新しい発見がたくさんある」と感じるような現場になると、自(おの)ずといいものができる。そういう現場をめざして、クライアントも制作プロセスに積極的に関われるような「目線合わせ」を大切にしています。
「目線合わせ」のためには、密なコミュニケーションはもちろん、個人としての人間性を開示していくことも重要です。お互いのキャラクターを理解し合えると、ミーティングの雰囲気もよくなって、一歩踏み込んだ議論やアイデア出しができるようになりますね。
クライアントの要望を聞いて、時には率直に「それは映像ではなく他のメディアのほうがいいかもしれません」というアドバイスをすることもあります。そういう誠実さを持って向き合っていくことで、信頼が生まれ、「並走」できる関係になっていくのだと思っています。
5. この仕事の醍醐味 (だいごみ)は?
各分野のプロが生む「化学反応」、想像を超えるアウトプット
「チームワークで作り上げていくこと」ですね。撮影、照明、キャスト、CG、編集、作曲、整音など、各プロセスにその道のプロがいる。それぞれの個性や技術、アイデアがいい形で組み合わさると「化学反応」が起きて、想像以上のアウトプットになるんです。こういう瞬間には、一人でモノづくりしていたら絶対に味わえません。
直近の案件で「化学変化」が起きたなと感じているのが、日本企業の海外向けプロモーション動画の制作案件です。クライアントからは「北米のユーザーをターゲットに、日本メーカーらしさを感じられるような映像にしたい」というオーダーがありました。
いろいろとアイデアは出たのですが、予算的に難しいものが多かった。そこで、演出に関わるところを生成AIでチャレンジしましょうと提案しました。監督は、生成AIの扱いに長(た)けているカナダの映像作家をアサインしました。生成AIに指示を出すプロンプトも英語がメインとなるので、ニュアンスまで正確に表現できるよう英語を母語としていて、北米の文化にも精通しているほうが適任だと考えたからです。
初めて本格的に生成AIを活用するプロジェクトとなりましたが、監督が私たちの意図をうまくくんで「日本らしさ」を表現してくれたこと、その他の実写部分のスタッフとのコラボレーションがうまくいったことで、とてもクオリティの高い動画になったと自負しています。クライアントにも好評でした。
6. 今後挑戦していきたいことは?
生成AI活用の最前線で、新たな表現手法の可能性を切り拓く
生成AIの活用は、積極的に検討していきたいですね。生成AIによる業務の効率化や低コスト化は、業界としても大きな転機と感じています。すべてを代替できるものではないですが、適材適所での活用は不可欠になってくると思います。

もちろん、著作権などの権利問題などの懸念点もあります。実際、海外では裁判が起きていたり、判断基準となる事例もまだまだ少ない状況なので、細心の注意が必要です。そのために生成AI活用における最新のルールや留意点を作り、更新していきたいと考えていて、情報のキャッチアップは日々欠かさず行っています。生成AIを使った安心・安全な映像制作のプロセスを確立することも、DCDとしての強みにしていきたいです。
生成AIでの動画生成が実用的になれば、演出手法の選択肢が大きく広がります。たとえば、会社の歴史を伝える映像制作をしようとした時に、当時の街並みや社屋を再現するために大がかりなセットを組んだり、CGでそれらを作ろうとしたりすると、膨大な費用がかかります。
そこで生成AIをうまく活用できれば、これまでは予算的に諦めていた再現映像なども、比較的容易にできるようになるかもしれません。生成AIをうまく使いこなすことは、顧客の体験価値の広がりにつながるはずです。
7. あなたにとってのプロジェクト成功とは?
視聴者目線を貫き、数値化への挑戦で「面白さ」を追求
「視聴者目線でちゃんと作られたか」が、プロジェクトの成功のカギだと思っています。クライアントワークなので、どうしても諸事情でクライアントの意向を第一に考えてしまいがちです。それはとても大事ではあるものの、そこに気を取られすぎていると、視聴者にとってわかりにくい要素ばかりになりかねません。
どんなにクライアントの要望に忠実に作っても、やはりそれは視聴者に届かなければ意味がありません。「いかに視聴者目線で作られたか、観る人の感情に訴えかけられる映像になったか」を、プロの目線で考えることが重要だと思います。
直近での試みとして、「視聴者目線の面白さ」を数値化するために、アンケートでユーザーが映像を観た際の体感時間を収集しました。実際の動画の長さよりも短く感じていたら、視聴者が「面白い」と感じていると判断できるのではないか、という仮説を持って、さまざまな視点から検証をしています。
「クライアントのニーズにしっかりと応えること」と「作品として純粋に面白いと思えること」のバランスが取れた映像ができた時に、プロジェクトは成功だと言えるのではないでしょうか。「面白い映像」とは何なのか、それはどのように定義できるのかを探求しながら、これからもクライアントの企業活動に寄与できる映像を真摯(しんし)に作っていきたいです。
- 注釈2025年12月時点の情報です。