顧客の心を読み、企業とつなぐ ─ 通販業界で培った「伝わる」コミュニケーション設計術

CRMコンサルティングの井上亜希子さん
▼語り手プロフィール
株式会社DNPコミュニケーションデザイン
西日本CXデザイン本部
井上 亜希子/Akiko Inoue

DNPコミュニケーションデザイン(以下、DCD)では、企画・制作における、多くのコミュニケーションのプロが活躍しています。そうしたプロフェッショナルたちにスポットライトを当てる企画、題して「D-Professional」。今回は、通販企業を中心とした顧客とのCRMコンサルティングのエキスパートである井上亜希子です。

【D-Professional】への7つの質問

1. 名前と社歴

CRMコンサルティングは「顧客とのコミュニケーションの全体設計」

井上亜希子です。2009年にDNP西日本に中途採用で入社しました。最初は社内報やディスクロージャー誌の作成など、コーポレートコミュニケーションに関わる案件を担当していました。

その後、異動をきっかけに通販企業の販促物の制作に携わるようになりました。多くの案件に携わる中で、“商品を売る”という目的を点で支えるだけでなく、顧客が長く愛用し、その企業やサービスを好きになってくださるようなコミュニケーションがとても大切であることに気づきました。その気づきが、現在のCRM(Customer Relationship Management)コンサルティング ― 顧客とのコミュニケーションを全体的に設計する業務の土台になっています。

2. 手掛けている業務

クライアントと顧客の良好なコミュニケーションを築く。中長期的なコミュニケーション支援

私が担っているCRMコンサルティングでは、CRMツールの導入を支援するような立ち回りではなく、中・長期的に顧客との良い関係を構築していくための最適なアプローチ手法(タイミングや媒体、訴求軸など)を手順化して整理・可視化させ、クリエイティブに落としていきます。

例えば、とある商品のトライアルを申し込んだ顧客に対する、2回目以降の購入につなげるコミュニケーションを設計するとします。こういったケースでは、買わない人の心理や行動を整理・可視化し、「買わない理由」を起こさせないようにするなど、さまざまなアプローチを検討します。購入率を高めるために、効果的なタイミング、媒体、メッセージを手順化し、クリエイティブに落とし込んでいきます。

具体的な業務の流れは、今ある課題を追うだけでなく、現状分析をして企業やブランドの強み・弱みを「見える化」することから始めています。そして、提供している商品・サービスの価値やポジショニングを明確にしたうえで、それらをどのように打ち出すかブランド戦略を策定します。プロモーションに関しては、最も効果的な媒体を検討し、マーケティング戦略やプランを策定します。

手掛けている業務について話すDCD井上

こうした中で、とくに注力しているのが、「顧客を知る」こと。クライアントの社内の問題として、よくあるのが「担当者によって顧客のイメージが揃っていない」といったことです。

例えば、制作物の担当者が複数名いる場合、ターゲットが「60代男性」と決まっていても、人によってイメージする「60代男性像」は異なることが多いです。そのような状態で販促物を作っても、訴求軸やトーン&マナーが揃わず、施策の効果が出にくくなるのです。

そうした課題をクリアするために、販促部門やコールセンター、営業などさまざまな部署の関係者を集めたワークショップを行い、そこで集約した声をもとにして、さまざまな要素を一覧できる独自のカスタマージャーニーマップを作成したこともありました。「みんなで声を出し合い、みんなで方針を決める場づくり」をして、その成果を模造紙1枚にまとめて可視化することで、関係者の目線が揃えられました。

カスタマージャーニーマップのまとめ方の例
※経過軸や整理内容は商品により変わります。

3. あなたの強みは?

時間をかけてじっくり考える「整理力」と、諦めない「継続力」

物事をじっくりと考え抜く点だと思います。先ほど紹介したカスタマージャーニーマップづくりなどは、本当に扱う情報が多く、さまざまの立場の意見がぶつかりあったりもするので、整理するのが難しいのです。ただ、どんなに状況が複雑でも、課題の軸や解決の糸口が見えるまで、諦めないで思考し続けるタフさには自信があります。

あとは、やったことのない分野にも思い切って飛び込んでいく行動力は、結構あるかなと。未知への挑戦から得られる経験や学びは大きく、これまでの自分のもつ価値観や常識が大きく転換することもありました。年齢を重ねても使える武器を増やしたり、固定概念を壊しアップデートしていく前向きさを失わないようにしたいですね。

4. 譲れないこだわりは?

「伝わる」ことへの徹底的なこだわり ─ タイミングと内容の最適化

私が仕事の中で最も大切にしているのは「伝わる」の追求です。「伝える」と「伝わる」はまったく違います。伝えたいことをただ発信するだけでは、相手に届きません。相手が受け取って、理解ができて初めて「伝わる」に到達するのです。

コミュニケーション設計で大切にしたい考え方

商品のプロモーションをする際、企業側には顧客に伝えたいことがたくさんあります。しかし、それがどんなに有益な情報だとしても、「顧客が受け取りたいと思える適切なタイミング」で「顧客が知りたがっている情報」を提供しなければ、受け取ってもらえません。

人が高価なものを購入したり、大きな決断をした時「本当にこの選択は正しかったのだろうか?」と不安を抱く心理状態をバイヤーズリモースと言いますが、通販においても、商品に対する購入者のモチベーションは買った瞬間からどんどん下がっていくこと、商品到着までの間にも気持ちの変化があることがわかっています。だからこそ、商品購入時の早い段階から、顧客の後悔・不安をケアするような働きかけが必要になります。

商品プロモーションでは、顧客の属性や状況に合わせて情報の取捨選択をしながら、コミュニケーションを「伝わる」内容に最適化していくことが重要です。そういった背景を踏まえて、「伝える」を「伝わる」に変えていくことを大切に考えています。

顧客の心理変化イメージ
※経過軸や狙いは、商品により変わります。

5. この仕事の醍醐味  (だいごみ)は?

PDCA(※1)を回し続ける「成長型」の関係づくり

単発の制作で終わらず、クライアントと長期的な関係を築けることですね。CRMコンサルティングは戦略立案から施策実行まで一緒に考えて取り組むため、プロセスに対する合意を得ながら、ともに進めていけることに面白さを感じます。

また、仮にひとつの施策がうまくいかなかった場合も、「なぜダメだったのか」を地域・時期・オファー内容・トレンドなどさまざまな要因で検証して改善につなげることで、常に最適なコミュニケーションを追求していくことができます。成功も失敗もダイレクトに見えて、それを次に生かせる仕事だからこそ、クライアントと一緒に挑戦し続ける関係をつくりやすいのです。

時代とともに世の中のトレンドや顧客の生活様式なども変わるため、一度つくってうまくいったコミュニケーションプログラムも定期的にアップデートが必要です。長期的に伴走できれば貢献できる部分も増え、成果も出しやすいからこそ、自分たちの仕事ぶりを評価いただき関係が長続きすることが何よりうれしいですね。

  • 注釈1:PDCAとは、Plan(計画)Do(実行)Check(評価)Act(改善)のサイクルを繰り返すこと。

6. 今後挑戦していきたいことは?

通販で培った知見を幅広い業界へ

これまで通販企業を中心に仕事をしてきましたが、今後はより幅広い業界に展開していきたいと考えています。CRMコンサルティングの方法論は、顧客との関係性を重んじるすべての企業に通じると思っているからです。顧客にどう行動を促すか、CRMコンサルティングにDNPの行動デザイン(※2)のメソッドを取り入れ、よりわかりやすい形で広く展開していきたいと考えています。     

今後挑戦していきたいことについて話すDCD井上

金融業界や、実店舗を持つリテール業などとの相性もいいはずです。顧客の獲得からの良好な関係づくりまで、最適な媒体選びとタイミングで思いを届ける。そこにCRMコンサルティングにDNPの行動デザインを取り入れた考え方が活かせると考えています。実際、単純な購買促進ではないプロジェクトも少しずつ増えてきているので、今後も多岐にわたる業務に対応しつつ、あらゆる業界のクライアントの事業成長に貢献できるようになりたいです。

  • 注釈2:DNPの行動デザインとは、行動経済学や行動科学の知見をもとに、人の行動変容や習慣化を支援するデザイン手法です。生活者が「やらなければいけない、するべきだ」と思いながら、なかなかできないことについて、製品やサービス、環境のデザインを通じて、その行動の実現を後押ししていきます。

7. あなたにとってのプロジェクト成功とは?

信頼関係の構築こそが真の成功 ─ 広告効果を超えた「継続的パートナーシップ」

私にとってのプロジェクト成功は、クライアントとの信頼関係が構築できることです。それは、単純に「売り上げが上がった」といった数値だけでは判断できません。施策の結果が良くても悪くても、一緒に課題を共有し、理解し合い、常に改善に向けた対話をしていけることが、理想的な状態だと思っています。

例えば、クライアントがいま取り組んでいるプロジェクト以外のことでも「こういうことを悩んでいます」と、モヤモヤとした課題感を共有してくれると、信頼していただけているんだなと感じます。これからもクライアントからのご期待に対し、期待以上の提案で応えていきたいです。

  • 注釈2026年2月時点の情報です。

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