「知ったつもりで語らない」覚悟 ─ 赤ちゃん本舗様とDCDが挑んだ、リトルベビー家族への誠実なコミュニケーション

株式会社赤ちゃん本舗
顧客コミュニケーション部
三好 久美子様/Kumiko Miyoshi(写真左)
株式会社DNPコミュニケーションデザイン
関西第1CXデザイン本部
岩田 絵理子/Eriko Iwata(写真右)
2025年4月、株式会社赤ちゃん本舗(以下、赤ちゃん本舗)様は「リトルベビーサポートサービス」を開始しました。出生体重が2,500g未満の小さく生まれた赤ちゃん「リトルベビー」を出産されたご家族を対象にしたこのサービスは、「子育て総合支援企業」を掲げる赤ちゃん本舗様の新たな取組みです。
本サービスの周知にあたり、大切にしたのは「誤解を与えないコミュニケーション」でした。支援を必要とするご家族に寄り添いながらも、商業的な印象や押し付けがましさを感じさせない ─ そんな繊細な表現のバランスを、どのように各コンテンツに落とし込んでいったのでしょうか。
本記事では、「リトルベビーサポートサービス」の企画・運営を担う赤ちゃん本舗の三好久美子様と、本サービス全般のコミュニケーション設計及び制作物のディレクションを担当したDNPコミュニケーションデザイン(以下、DCD)の岩田絵理子に、立ち上げから制作までのプロセスと、コミュニケーション設計について伺います。
- 注釈赤ちゃん本舗様では、店舗や販売におけるブランド表記を「アカチャンホンポ」としています。
1. 子育て総合支援企業として、今ある課題に向き合う
「リトルベビーサポートサービス」を立ち上げることになった経緯を教えてください。
三好様:出生体重が2,500g未満の、小さく生まれた赤ちゃんを「リトルベビー(低出生体重児)」といいます。近年のデータでは、10人に1人がリトルベビーとして生まれており、「子育て総合支援企業」を掲げる赤ちゃん本舗として、リトルベビーを出産されたママやパパの暮らしに寄り添い、実際に役立つサポートを届けたいと考え、支援を行うことにしました。

最初は育児用品を揃える際のお買い物支援としてQUOカードPayの提供といった、金銭面の支援を考えていたのですが、社内から「それだけでご家族に寄り添えるのか」という意見が出て。議論の結果、ご家族の心に寄り添うブックを贈ることや、アプリ会員が持つアカチャンホンポアプリポイントをリトルベビーのママ・パパの応援に変える仕組みをつくるなど、より包括的なサポートをしていこうと方向性が固まっていきました。
DCDに相談することになった経緯は?
三好様:弊社とDCDさんはかれこれ30年以上のお付き合いがあり、事業活動における戦略・施策の設計からコンテンツの制作まで、多角的なサポートをいただいています。弊社のブランドや顧客への思いを理解した上で、きめ細やかなコミュニケーション、コンテンツの設計をしてくれることに信頼を置いています。
また、本件では当初よりWebサイトだけでなく、リーフレットやポスターなどの制作も検討していました。DCDさんはさまざまな媒体のクリエイティブを一括して依頼できます。そういった背景から、本件でも真っ先に相談させてもらいました。
2. リトルベビーのパパ・ママが抱く複雑な思い
DCDとして、本件ではどのようなサポートをしましたか?
岩田:制作したのはWebサイトとブックです。Webサイトは「リトルベビーサポートサービス」について紹介するとともに、支援を必要とするご家族に寄り添う場となる「リトルベビーサポートサイト」と、アプリ会員の皆さんに保有ポイントでリトルベビーとそのママ・パパへの応援ができる「ポイント応援プログラム」について案内するものの2種類。これらの制作とともに「リトルベビーサポートサービス」全体のコミュニケーション設計を担当しました。


コミュニケーションの設計において、どのような点を配慮しましたか?
岩田:リトルベビーの誕生は、ご家族にとってうれしいことはもちろんですが、小さく生まれたことでの将来の不安もあるはず。そういった背景があるからこそ、このサービスが「おめでとうございます!プレゼントです!」というニュアンスで伝わってしまうと、傷つけてしまうおそれもあります。
また、お買い物支援としてQUOカードPayを提供することから、販促目的に見えてしまうと、本来の意図とは違うものとして受けとられかねません。誤解を与えず、企業としてのスタンスが真摯に伝わるよう、一つひとつ表現、言葉遣いに注意しながら制作を進めました。

私自身、2人子どもがいるので、出産や子育ての大変さはわかっているつもりです。それでも、リトルベビーを出産したママやパパの不安、複雑な心境は計り知れないと感じて、リトルベビーを出産した方の体験談や、リトルベビーについて書かれた医師の研究報告書などに目を通して。「生まれてすぐに保育器に入り、触れることもできない」「出産から数カ月後に抱っこして、初めて母になったと感じた」といった言葉に触れて、「当事者ではない自分が知ったつもりで語ってはいけない」と感じました。
そこで、リトルベビーのご家族に寄り添うには、同じ立場を経験したママ・パパの言葉が必要なのでは、と考えて「アカチャンホンポのアプリ会員の皆様にアンケートを実施しませんか?」と提案したんです。
三好様:アンケートの提案を聞いたときは「生の声を聞けるのは、赤ちゃん本舗だからこそできるアプローチだ」と感じました。
ブックについても、当初は「絵本にしよう」という話で進んでいたのですが、DCDさんとどのようなコンテンツにするべきか慎重に検討する中で、「アンケートを活かして、リトルベビーを出産し、育ててきた先輩ママ・パパの経験談を活かしたものにするのはどうか?」と提案していただけて、よりよいコンテンツになったと感じています。
3. 約1,000件の経験談が、当事者への寄り添い方を教えてくれた
実施したアンケートについて、詳しく教えてください。
岩田:アカチャンホンポのアプリ会員様200万人に向けて「リトルベビーの先輩ママ・パパへのアンケート」を実施していただきました。「どんな瞬間に我が子の成長を感じましたか?」「大きくなった我が子とやってみたいことは?」「リトルベビーを出産されたママやパパへのエール」といった問いに対して、記述式で答えていただく形にしました。
実施前は100件前後の回答が集まればいいなと想定していたのですが、ふたを開けてみたら約1,000件の回答をいただいて、びっくりしました。
三好様:アンケート項目の設計については、岩田さんに「どのような質問にすると回答しやすいか、その後のコンテンツに活かしやすいか」といった観点でいろいろとアドバイスをもらえて、とても助かりました。
アンケートを通して、どのような気付きが得られましたか?
三好様:「目が合う、寝返りする、お座りする」といった月齢ごとの成長段階。リトルベビーは、段階を踏むのがゆっくりなことがほとんどなので、周りと比較して「うちの子はできていない……」と不安に思ってしまう方が多いんです。
しかし、アンケートを実施してみて、成長がゆっくりだからこそ「自分のことを目で追うようになった」「ミルクを飲むのが早くなった。飲む量が増えた」といった、小さな変化に目を向けて大切にされていることを知れて、胸が熱くなりました。
これらは、実際にリトルベビーを持つママやパパでなければわからない視点であり、「毎日少しずつ成長している。周りと比較して不安に思わなくていいよ」と当事者を応援する要素になると感じたので、先輩ママ・パパたちの経験談としてブックの中にも盛り込みました。
岩田:リトルベビーの小さな変化を見つけて、我が子の日々の成長に実感を持ってほしいと思ったので、経験談と合わせて「我が子の動きや表情がどう変わってきたか」「どんなことができるようになったか」を自分で書き込んでもらうスペースを設けました。子どもが大きくなってからも、思い出として見返せるものになったらいいなと。

アンケートで得られた先輩ママ・パパたちの声は、当初ブックでのみ掲載するつもりでいたのですが、本当にたくさんのメッセージをいただけたので、「リトルベビーサポートサイト」にも活用することにしました。不安を抱いているママ・パパの目に留まって、少しでも心の支えになってくれたらと願っています。

4. 宣伝色を抑える、クリエイティブへの繊細な配慮
具体的なデザインや細かいクリエイティブにおいて、特に配慮したポイントは?
岩田:ブックの色味ですね。最初はやさしい印象を押し出す意図で全体的にピンクっぽい配色になっていました。三好さんたちとディスカッションを通して「ママだけが子育てをするわけではないから、見た目で女性っぽさが強く出すぎないようにしよう」という方向性になり、淡い青や黄色なども取り入れつつ、全体として落ち着いた配色になるよう調整しています。
言葉遣いの面では、「アカチャンホンポ」のPRになるような表現は極力控えて、あくまでも支援を主眼としたサービスであることを強調。マーケティング色を感じさせないデザイン、コピーライティングを細部まで徹底しました。

制作中のDCDの対応について、印象に残っていることは?
三好様:サービスのコンセプトの部分からWebサイトやブックを作り上げる経験はこれが初めてだったので、いろいろとわからないことも多かったのですが、何か相談したりお願いをしたりすると、いつもすぐにレスポンスが返ってきて心強かったです。
課題を言語化しきれていない状態で、ふわっとしたオーダーをしても、こちらの意図をくみつつデザインやコピーに反映してくださって、感謝しています。ブックのメインビジュアルについても、「子どもの可愛らしさを表現したい」というこちらの意向をふまえ、動物をたくさんあしらった絵にしてもらえて、個人的にとても気に入っているポイントです。
「ブック内でパパの存在が薄くならないようにしてほしい」「赤ちゃんの手形を押せるスペースを入れたい」などこちらの細かい要望にも対応しつつ、全体で押し出したいコンセプトやストーリーがブレないように調整していただけて、最終的な仕上がりにもすごく満足しています。

5. リリース後の反響、「社会貢献」と「企業活動」のバランス
2025年4月にWebサイトを、7月にブックをリリースされました。その後の反響はいかがでしょうか。
三好様:現時点で「リトルベビーサポートサービス」の利用者はまだ多くないのですが、少しずつ数は増えてきているところです。本サービスは2025年4月以降にアプリ会員に新規登録した方を対象としているので、タイミング的にこれから出産を迎えて、サービス利用にあたっての申請が増えてくるのではないかと見込んでいます。
SNSなどではこのサービスを好意的に受け入れ、応援してくださるユーザーがほとんどで、とてもありがたいなと感じています。特にX上では、サービスを周知する投稿に対して「いいね!」よりも「保存」をしている方が多いのが印象的でした。
「リトルベビーは新生児の10人に1人の割合」と言われています。私たちの支援が出産を迎えるママ・パパにとってお守りのようになればと思い、広く知っていただけるよう、より広報に注力していきたいです。

「リトルベビーサポートサービス」の今後の展開について教えてください。
三好様:まだまだ立ち上がったばかりのサービスなので、リアルの店舗でのポスターの展開などプロモーションの手を広げつつ、着実に認知度を上げていきたいと考えています。
今後はここでできたリトルベビーのママ・パパとのつながりを大事にして、「どんな商品やサービスがよかったか、また足りなかったのか」といった声を集め、さらに当事者に寄り添える商品・サービスの開発に活かしていこうと思っています。
こうした取組みを通して、最終的に「妊娠したらアカチャンホンポ」というポジションを確立し、企業のブランディングや成長につなげていきたいなと。「リトルベビーサポートサービス」は利益を上げる活動ではありませんが、こうした社会貢献的な動きを健やかに続けていくためにも、事業への接続はしっかりと意識していきたいです。
岩田:本件では、どれだけ当事者の背景、抱えている感情に寄り添った企業コミュニケーションが設計できるかが、大きな焦点でした。
プロモーションを目的としたWebサイトなどの媒体づくりは、気をつけないと「いかにクリックさせるか、買わせるか」という圧の強いアウトプットになりがちです。もちろん、押しの強いクリエイティブが最適解になるケースも多々ありますが、今回はなるべくそれを抑えたコミュニケーション設計を実践できて、三好さんたちにも評価をしていただけました。そして何より、「リトルベビーサポートサービス」を通じて出産・子育ての課題に応えるお手伝いができてよかったです。
今回のケースのように「社会貢献」と「企業活動」のバランスをうまく取りながら企業としてユーザーとコミュニケーションを取ることは、今後さまざまな場面で必要になってくると思います。本件での経験を活かしつつ、引き続き赤ちゃん本舗様の長期的なコーポレートブランディングに貢献できるよう尽力していきます。
- 注釈2026年3月時点の情報です。