「転勤」をポジティブに ─ 北海道エアポート様の採用サイトが実現した、学生の心に響くコミュニケーション設計

北海道エアポート株式会社
総務本部 大宮 拓巳 様/Takumi Omiya(写真左)
株式会社DNPコミュニケーションデザイン
東日本CXデザイン本部 福盛田 俊/Shun Fukumorita(写真右)
2019年の設立以来、北海道の7つの空港を束ねる北海道エアポート株式会社(以下、HAP)様。日本でも類を見ないユニークな事業モデルを展開する同社は、人材確保における課題に直面していました。設立から間もないこともあり、知名度の低さや業務内容の複雑さによって、求職者に正しく会社を理解してもらえない状況が続いていたのです。
そこでHAP様が取り組んだのが、採用サイトの全面リニューアルでした。DNPコミュニケーションデザイン(以下、DCD)とともに取り組んだこのプロジェクトは、サイトの刷新にとどまらず、学生の心に響くコミュニケーションへと昇華しました。
本記事では、HAPの大宮拓巳様とDCDの福盛田俊に、採用サイトリニューアルの背景から具体的な制作プロセス、そして得られた成果について伺います。
1. 「正しく伝える」ことの難しさ ─ 設立7年目の企業が直面した採用課題
採用サイトのリニューアルに至った経緯について教えてください。どのような背景と課題感があったのでしょうか?
大宮様:HAPは2019年に設立された歴史の浅い会社で、手がけるビジネスもBtoBです。そのために会社の認知度が低く、求人の募集をしてもなかなか人が集まらない、という課題がありました。
そんな現状をなんとか打破するための施策として、不特定多数の方に見ていただける採用サイトのリニューアルが決まりました。

従来の採用サイトには、どのような課題があったのでしょうか?
大宮様:細かいポイントはいろいろとあったのですが、一番の課題は、学生に対して業務内容を正確に伝えるための情報設計が不十分だったことです。
弊社は道内7空港の運営を一手に手がけており、「滑走路の管理・運用」「旅客ターミナルビルの管理・運営」「観光開発・航空ネットワーク拡充」など、多岐にわたる業務を担っています。
その全容がうまく伝わっていないために、弊社をエアラインの業務と誤認した方が説明会によく来ていたり、こちらが求めているスキルや適性を持った学生のエントリーが少なかったりと、ミスマッチが生まれているなという実感がありました。
サイトリニューアルの依頼先を選定するコンペでは、どのような情報を共有されたのでしょうか?
大宮様:弊社のことをより深く理解してもらえればと思い、私たちがまとめた自社のSWOT分析(※)や、現状の採用について感じている課題感、具体的な業務内容の説明などをまとめた資料を事前に展開しました。
依頼の方向性については、まず大前提として、弊社の手がける業務の幅と実態を「正しく、わかりやすく伝えること」を挙げました。その上で「学生にHAPで働く具体的なイメージを持ってもらえること」「HAPでの働きがいが伝わること」「HAPで働くメリットを情報として提供すること」の3点を要望として皆さんに伝えました。
- 注釈内部環境である自社の強み(Strength)・弱み(Weakness)と、外部環境であるの市場の機会(Opportunity)・脅威(Threat)という4つの要素に分けて分析することで、自社の現状を客観的に把握し、効果的な戦略立案につなげるフレームワーク。
2. ユーザーのインサイトから導き出した「働く未来」を見せるコミュニケーション
コンペにて、DCDからはどのようなポイントを推して提案をしましたか?
福盛田:重要視したのは「ユーザー視点」です。企業側が伝えたいこととユーザーが知りたいことがマッチしていないと、情報を受け取ってもらいづらくなります。
そこを明確にするために、まずはターゲットとなるユーザーについて、オープン情報やマーケティングツールを使って検索ワードの調査を行いました。そこで得た情報をもとに「ターゲットとなるユーザーはどんな趣向で、何を求めているか」をチームでディスカッションしていくつかのペルソナを設定し、彼らに刺さる訴求ポイントを探りました。
ユーザー像を深掘りする中で、どのような発見がありましたか?
福盛田:興味深かったのは「転勤が嫌だ」「自分で仕事を決められないことに抵抗感がある」という想定通りの傾向があらわになった一方で、「自己実現したい」「それにつながるなら、転勤しても構わない」というインサイトも見えたことです。
HAP様が求めている人材は、まさに後者のようなマインドを持った学生。そこに訴求するために、サイト内では「転勤先となる各拠点で楽しそうに仕事をしている社員の姿」を押し出すことを、提案に盛り込みました。

採用サイト全体のコミュニケーション設計において、提案時にとくに打ち出した点は?
福盛田:「企業側の考えやスタンスを、実際に働く人の姿を通じて伝える」ことを前提にしたいと提案しました。学生が「ここで働くと、どんな未来があるのか」を想像しやすいコンテンツ内容にするためには、「人」を起点にさまざまな情報を伝えていくのが効果的だと考えました。
HAP様から見て、DCDの提案の決め手となったポイントは何でしたか?
大宮様:DCDさんが提案してくれた「人をフックにして、働く未来を伝える」という方向性がとてもすてきだと思ったし、最も学生の心に響くかもしれないと感じました。
また、弊社は転勤が避けられない職場であり、そこをネガティブにとらえる学生は多いです。その点をごまかしたりせずに、なるべくポジティブに伝える方法を具体的に提案してくれたことも、とくに評価が高かったですね。
3. 「人」を見せる設計と、デジタル・アナログの相乗効果
採用サイトのクリエイティブで、とくに注力した点を教えてください。
福盛田:視覚的にわかりやすさを感じてもらうために、社員の皆さんの表情が見える写真をトップページのファーストビューに多く配置しています。各記事コンテンツについても人にフォーカスを当てた設計にして、その人が話す内容から業務や社風が見える構造にしました。

また、就活生は就職活動のどのタイミングでサイトを見るかによって、知りたい情報の粒度が変わってきます。就活序盤にサラッと見に来た人は興味を持ってもらいやすく、終盤でもっと知りたいと思った人にはさらに詳しい情報をわかりやすく提供できるような階層を設計しています。
見た目をスッキリさせつつ、必要な情報はしっかりと正しく伝えるために 、記事をアコーディオンで開く設計にするなど、「わかりやすさ」と「正しさ」のバランスを取るための工夫を随所に施しました。
制作過程で印象に残っているやり取りはありますか?
大宮様:いろいろと無理難題を言った気がします(笑)。漠然としたお願いもあったかと思いますが、こちらの意図やニーズをしっかりとくんだ上で、的確にデザインやコピーに落としこんでくれて、とてもありがたかったです。
福盛田:週次で定例会を開催して密にコミュニケーションをとり、丁寧に方向性をすり合わせ、調整しながら進められたのがよかったと思っています。
採用サイトと連動した紙のパンフレットも制作されたそうですね。
福盛田:コンペの提案時にパンフレット制作実績についても話をしており、サイトの制作中にあらためてHAP様からオーダーをいただいたんです。サイトと紙の目的や動線の違いを資料にまとめて、望ましいUXを描きながら台割を作成していきました。
パンフレットには、紙ならではの仕掛けや工夫もふんだんに取り入れました。例えば「思わず開きたくなるだろう」という想定のもとで観音開きの構成にしたり、A4より少しだけ大きめのサイズにして、他社のパンフレットと重ねたときに上部がはみ出るようにしました。そのはみ出る部分に飛行機のイラストを入れて、パッと目につきやすいようにしています。

大宮様:学生の印象に残ることが一番なので、観音開きのページを開いたときのインパクトを重視したデザインにしてもらいました。さまざまな社員の写真とコピーを一言入れただけのシンプルな構成ながら、雰囲気のよさや働きがいが伝わってくるような仕上がりになっていて、個人的にとても気に入っています。
説明会に置いたりしているのですが、今までより持ち帰ってもらえる数が増えているので、学生のウケもよさそうだなと感じています。
4. エントリー数の増加だけでなく、インナーブランディングとしての効果も
リニューアル後、どのような反響がありましたか?
大宮様:定量的な部分では、以前の採用サイトと比較して、アクセス数やエントリー数も増加傾向にあります。とくに、最もターゲットに訴求したかった「業務紹介」「先輩紹介」のページがよく見られており、届けたい情報が学生たちに伝わっている実感があります。
定性的な部分でいうと、社内では「わかりやすく、見やすくなった」とかなり好評価をしてもらっています。リニューアルをきっかけに、社内で「あの人が載っていたね」「あの部署はこんな仕事をしていたんだ」というコミュニケーションが各所で生まれていて、インナーブランディングにも貢献できています。
現状では期待通りの効果が出ており、リニューアルしてよかったと感じています。

今後の展望について教えてください。
大宮様:採用サイトの大枠がしっかりと出来上がったので、ここからさらに肉付けをしていって、HAPの魅力を積極的に訴求していきたいです。
今後やりたいと思っているのは、DCDさんが提案してくれた7つの空港で働く社員自身が、それぞれの職場や生活の風景を撮影した写真・動画なども載せて、HAPで働く様子のリアルを伝えるようなコンテンツの展開です。
また、先輩社員のインタビューや座談会も、さまざまな部署や切り口でもっと増やしていきたいですね。現状は新卒向けのコンテンツがメインですが、異業種から転職してきた社員のインタビューなども載せて、キャリア採用向けにも展開できるようにしたいと考えています。

福盛田:こうしたサイトは作って終わり、というものではありません。今後はしっかりと効果測定をして細やかな改善を続けながら、採用周りのトレンドをキャッチアップして、よりHAP様と親和性の高い学生が流入してくるように、コンテンツのさらなる拡充やSEOやAIO対策にも注力していきたいです。
大宮様:HAPはできて間もない会社で、社内の体制や部署間の連携なども、まだまだ手探りの部分も多いです。そんな過渡期だからこそ、今回の採用サイトのリニューアルのような新しいチャレンジを後押ししてくれる環境でもあるなと感じています。
まだまだ伝えきれていないHAPの良さを伝えきれるように、DCDさんの力を借りて、継続的に採用サイトを充実させていければと思っています。
- 注釈2026年4月時点の情報です。