コラム

コンパクトでもより目立つイベントブースづくり!
恐竜展で魅せたDCDのXR・3DCG技術とは?

▼語り手プロフィール
株式会社DNPコミュニケーションデザイン
第3CXデザイン本部
グループ長 大貫 雅彦/Masahiko Oonuki

昨今、XR・3DCG技術の進歩によって、展覧会やイベントの体験価値が大きく変わりつつあります。より臨場感ある映像体験や作品演出などが可能になり、来場者の興味関心を刺激する表現の幅が広がりました。またコロナ禍を経て、リアルイベントならではの価値も再認識されたことで、リアルとバーチャルの融合がキーポイントのひとつに。今後、展示会・イベント業界はさらなる変革期を迎えることになるのではないでしょうか。

DNPコミュニケーションデザイン(以下、DCD)はこうした潮流が生まれる前から、XR・3DCG技術を活用したソリューションの開発・検証に注力。長年にわたり、さまざまな展覧会やイベントでコンテンツ制作や導入支援を行っています。今回は、大日本印刷(以下、DNP)が主催した「見かたを変える、ふしぎな恐竜展」の事例を通じて、XR・3DCG技術の活用方法をご紹介。制作を担当したメンバーへのインタビュー形式でお届けします。

1.【背景】狭くても楽しんでほしい!驚きと発見のある恐竜展を目指して

― はじめに、「見かたを変える、ふしぎな恐竜展」の開催の経緯をお聞かせいただけますか?

会場となったDNPプラザは、DNPが運営するオープンイノベーション施設で、常時さまざまな企画展を開催しています。一般の方に向け開放し、大人も子どもも楽しめる場であると同時に、DNPの技術を企業にアピールする役割も担っています。今回の恐竜展ではDNPが持つ技術やソリューションと恐竜を掛け合わせることで新しい見せ方にチャレンジしたいという運営側の想い、3Dプリント模型等の展示を検討していたグループ会社のシーピーデザインコンサルティングから、XR・3DCG技術の活用に携わっている我々に声がかかりました。

― DCDとしては展示のどの部分を担当されたのでしょうか?

3Dデータを活用した「AR」と「3Dプリント模型」による展示コンテンツ用3DCGデータの加工、編集を担当しました。展示スペースは博物館のような広さはなく非常にコンパクトで、実物大の化石や骨格標本を置くことはできません。そんな限られたスペースでも楽しんでいただけるように、3Dプリント用のデータを流用してARコンテンツを作ることになったという経緯です。
もともとARを活用して実寸大の恐竜が出現する仕掛けが計画されていましたが、3Dプリント模型用のデータをAR用に最適化して活用することを提案しました。また3Dプリント模型では、恐竜の質感や模様、形状をじっくり鑑賞できるように細部までリアリティを追求。リアルとバーチャルを組み合わせることで、大きな恐竜展にも引けを取らない独自の体験価値を提供できるようになりました。

2.【手順】外部クリエイターと連携し、3Dデータを最適なかたちで二次利用

― 制作はどのように進行していったのでしょうか?

まずARや3Dプリント模型をつくるためには、元となる3DCGデータが必要です。今回ご協力いただいたのは、長年図鑑や専門誌などで掲載されるリアルな恐竜のCGイラストを手掛けているイラストレーター・加藤愛一氏。ご自身のCGイラストはこれまで大型の3Dプリンタで再現されたことはなく、どのように再現されるのかがわからない、XR技術についても活用される機会はまだあまりないとのことでした。そのため、「どんな見せ方が可能な技術なのか」「私たちが実現したいことは何か」など、企画をしっかりと理解いただけるように、加藤氏の個展やイベントに足しげく通ってご説明するところから関係がスタートしました。

加藤氏との仕事は初めてでしたが、展示物のアイデアを出してくださったり、イラストの調整も快く引き受けてくださったりと良好な関係でプロジェクトを進めることができたと思います。最終的には、ブラキオサウルスやトリケラトプス、卵に入ったマイアサウラなど、さまざまな恐竜の3DCGデータを高精度に仕上げていただきました。

― 加藤氏の3DCGデータを活用するにあたって、どのような点に注意されていたのでしょうか。

加藤氏の3DCGデータは学術的にも正しく精巧に作られているため、データのサイズも膨大なんですね。私たちは、それをARや3Dプリントで利用できるようにデータの最適化をおこないました。特にARでは、データサイズを100分の1程度にまで軽くする必要があります。でも、データを軽くすると皮膚の凹凸がなくなり、形状が粗く角張るため、加藤氏のCGイラストの良さを壊さないように気を付けましたね。例えば、質感や凹凸感を再現する素材で補完したり、ツノやトゲなどの特徴的な部分だけは形状を維持したりして、恐竜らしさとデータの軽さのバランスを見極めていきました。

  • 元となる加藤愛一氏の3Dデータ

  • AR用に最適化したデータ

3.【強み】ARと3Dプリント模型で、大人も子どもも楽しめる仕掛けを実現

― ARや3Dプリント模型をつくる上では、どのような工夫があったのでしょうか。

ARで用意したのは「トリケラトプスの親子」と「ブラキオサウルス」の二つ。恐竜に動きをつけて臨場感が出るように工夫しています。顔の向きを変えたり、親子で見つめ合ったりするシンプルな動きではあるのですが、映画やアニメを見て恐竜の動きを研究して、お子さんを連れたご家族が楽しむ様子を想像しながら調整しました。一方、3Dプリント模型では「卵に入ったマイアサウラ」や「トリケラトプスの幼体」などを用意。マイアサウラの模型はフルカラー3Dプリントで制作しており、そのリアリティに驚かれると思います。トリケラトプスは、ARでは表現しきれなかった皮膚の凹凸や首まわりのしわなどの細かい部分までしっかりと再現できました。

―トリケラトプスについては、ARでも3Dプリント模型でも見ることができるんですね。

そうなんです、限られたスペースでも「AR」と「模型」をリンクさせ、リアルとバーチャルを見比べながら楽しんでもらうことも企画の狙いの一つ。トリケラトプスを軸に「リアルとバーチャルの融合」を体験できるように展開していました。精巧さは3Dプリント模型で見ていただいて、ARの方ではそれが実際に存在しているように感じられるという、ちょっとした驚きと発見を体験してもらえたらうれしいですね。

4.【結果】XR・3DCG技術の活用事例における貴重なモデルケースに

― 今回の恐竜展を振り返っての感想を教えてください。

約1カ月という非常にタイトなスケジュールに悩むこともありましたが、加藤氏に作成いただいた3Dデータを最適なカタチに活用することができて安心しています。また、「外部クリエイターとの連携」や「DNPグループ各社との連携」、「リアルとバーチャルを組み合わせた展示」は、XR・3DCG技術の利活用を広めていくうえで貴重なモデルケースの一つになったと思います。

来場者の体験価値を広げられる可能性を秘めていますし、何より五感を刺激されると大人も子どもも楽しめますから、今後の展示会やイベントに求められる取り組みになっていくのではないでしょうか。私たちとしても、これまで培ってきたXR・3DCG技術を活用して、体験価値の向上を促していければと考えています。

5.【展望】リアルとバーチャルの往来で、体験価値が広がっていく

― XRや3DCG技術を活用していくうえで、DCDとして見据えている未来を教えてください。

今回は恐竜という現存しない生物を扱いましたが、XR・3DCG技術の活用で気を付けているのは「本物の価値をつぶさないこと」。普段は一般公開されていない国宝の刀や絵画、骨とう品など、さまざまな事情で実物を見られない、近づけないという場合、疑似的に再現できることはとても有益なことだと思います。ただし、リアリティを追求するだけでは「ARで見たから」「VRで体験できたから」と、本物への興味を奪ってしまうことにもなりかねません。だからこそ、XR・3DCG技術には本物の価値を上げる役割を持たせることも重要だと考えています。

― 「本物の価値」を上げるために必要なことはなんでしょうか。

「何をどう見せたいのか」「誰に何を伝えたいのか」を考えることが、これまで以上に大切になってくると思います。ただ精密なだけではなく、それぞれが持つ特徴を少しわかりやすいように制作してみる。例えば、日本刀の刃文(はもん)をイメージしてみてください。実物展示ではガラス越しに置かれ、照明も定位置から当てられているため、初めて見る方には同じ模様にしか見えない場合があります。でも実際は刀剣鑑賞の作法のように、手に持って刀全体を見ることで初めて見える地鉄(じがね)や刃文のさまざまな表情を感じ取ることができます。デジタルでは完全な再現は困難ですが、VRでは刃文を少し目立たせつつ、日本刀を持った状態で鑑賞できるようにする。そうすると、日本刀の特徴や鑑賞する面白さを深く知ることができるんです。このように見る側をサポートする工夫を凝らすことで、事前知識を得てから本物を楽しめたり、リアルとバーチャルを見比べたときに新しい発見があったり……「本物の価値」を上げながらも、体験価値を無限に広げられると思いませんか。

もちろん一筋縄ではいかないこともありますが、私たちもさまざまなコンテンツを手掛けてきた知見とノウハウ、そして技術者としてのプライドがあります。もしXRや3DCGを使って何か面白いことをしたいと考えている担当者さまがいらしたら、ぜひお気軽にご相談ください。お互いにアイデアを出し合いながら、来場者の興味関心を刺激するコンテンツを一緒につくりましょう。

▼DNPプラザで開催した「見かたを変える、ふしぎな恐竜展」の概要はこちら。
DNPプラザで「見かたを変える、ふしぎな恐竜展」を開催

※このイベントは既に終了しています。

※2024年3月時点の情報です。

3DCG・XR技術を用いたソリューションの情報は以下のWebページでも公開していますので、ぜひご覧ください。