ブランドのイメージモデルもAIで? 最新の生成AI活用が変える
「モデル撮影」の在り方

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▼語り手プロフィール
株式会社DNPコミュニケーションデザイン
コンテンツDX本部
課長 清水 明/Akira Shimizu

近年、クリエイティブの現場でのAI活用が加速し、次々と新しいサービスが生まれています。

そんな中で注目を集めているジャンルのひとつが「生成AIによる人物モデルの作成」です。広告クリエイティブに企業イメージを最も体現するモデルを採用するためには、オーディションの段階から契約、撮影に至るまで、手間も時間もかかります。それらを生成AIの力で解消しようと、さまざまな試行錯誤が繰り広げられています。

本記事では、数多くの撮影ディレクションを務めるコンテンツDX本部の清水 明が、モデル撮影における最新のAI活用事例について解説します。

1. モデル起用にまつわる種々の課題、AIで解消できる?

AIの活用によって、広告制作の現場ではどのような課題解決が期待できるのでしょうか?

クリエイティブの現場では、人のモデルを起用してビジュアルの制作をすることが多々ありますが、この「モデル撮影」の周辺ではさまざまな課題が発生します。

まず考えられるのが、モデルの選出における課題です。クオリティの高い広告を作るためにはクリエイティブのイメージに合ったモデル選考が重要になりますが、条件にこだわればこだわるほど、理想的な対象が見つかるまでにかかる時間と費用がかさみます。そして、いくらコストをかけたとしても、最適なモデルが見つかるとは限りません。昨今ではWeb媒体向けに大量のクリエイティブの制作が現場に求められており、モデルを起用したくても予算的にオーディションなどを実施するのが難しいことも往々にしてあります。

また、モデルの契約上の規定によって、制作後に課題が生じるケースもあります。たとえば、新商品の入れ替えサイクルが緩やかなオフィス家具メーカーなどの広告制作でモデルを起用した場合、広告の掲載期間を延長するのに、モデルの契約期間が切れてしまって、別のモデルで再度撮影しなくてはならない…といった事例は少なくありません。

さらには、ブランドを象徴するキャラクターとしてモデルを採用する際には、時の経過に伴うモデルの変化が課題となることもあります。例を挙げると、アパレルメーカーにおけるキッズウエアの撮影で一定期間同じ子どものモデルを登用したいケースで、その子が急速に成長して背格好が変わってしまい、ブランドのイメージから離れてしまう…といったことも起こり得ます。

こうしたモデル撮影にまつわる課題を解消するために、生成AIが活用できるのではないかと期待されています。近年の生成AIの進歩は目覚ましく、ほぼ人の目では「実写なのか、生成AIのものなのか」見分けがつかないような画像が作れるようになっています。

DNPコミュニケーションデザイン(以下、DCD)として、モデル撮影における生成AIの活用はどのように進めているのですか?

私たちの制作現場でも、モデルを用いた商品撮影の手間やコストの増加がここ数年で大きな課題となっていました。その負担を軽減するために生成AIの活用を模索した結果として、現在は2DのCGモデルを作成するAI model社の「AIモデル」というツールの導入を進めています。

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2. オリジナリティを高め、撮影効率もあげる「AIモデル」の魅力

AI model社が提供する「AIモデル」とはどのようなツールなのですか?

生成AIで制作した顔のビジュアルを、別途撮影したパーツモデル(※)やマネキンの「目・鼻・口」の位置や表情に合わせて合成し、違和感のないように調整していくツールです。生成AIでモデルの全身を作ろうとすると、生成する度に顔が変わってしまいます。一方、「AIモデル」では、同じ顔のモデルを角度や表情を変えて作り出すことができるので、商品広告などをはじめとするさまざまなビジュアルに活用しやすいのが特徴です。

  • 注釈パーツモデル:全身ではなく身体の一部分のみを利用する前提で採用するモデルのこと
「AIモデル」ツールを使用し、生成AIで制作した顔のビジュアルを、別途撮影したパーツモデルに合成するイメージ

「AIモデル」を活用する強みとは、どのようなところにありますか?

大きく4点あります。

1つ目は「オリジナルモデルを作成し、さまざまなメディアで展開できる点」です。静止画だけでなく動画にも対応できるので、想像以上に幅広い活用が可能です。

2つ目は「実物のモデルをベースにしつつ、複数人のモデルを作成できる」点です。年齢や人種、身長の変更も可能なので、媒体ごとに顔のビジュアルを変えるなど、ターゲットの異なる別パターンのクリエイティブも制作しやすくなります。

3つ目は「モデル登用における手間、費用などの諸コストを大幅に軽減できる」点です。実人物のモデルを登用するのに比べると、契約期間や使用範囲の制限がとても少ないため、かなり安価かつ自由に活用することができます。

4つ目は「パーツモデルのオーディションの融通が利きやすい」点です。「AIモデル」を活用すれば、たとえばポージングや衣装合わせはマネキンで行い、パーツモデルは髪型と身長のみで選出する…といった対応もできるので、オーディションにまつわる負荷やリスクを大きく軽減できます。

3. ささげ業務でも大活躍! ブランドのイメージキャラクターとしての起用も

具体的にどのような制作シーンでの活用が期待できますか?

モデルを利用するあらゆる制作現場で活躍できますが、とりわけECサイトに掲載する商品画像や説明テキストなど準備する「ささげ業務」(※)のような大量の撮影が必要な案件で力を発揮しますね。「AIモデル」の導入によって全身モデルをパーツモデルに移行することができれば、おおよそモデルにまつわる費用を30%程度削減できるケースもあります。

先に例示した「契約が切れてモデルの写真が使えなくなる」「子どものモデルが成長してブランドイメージに合わなくなる」といった課題が発生し得るケースでも、「AIモデル」を導入することでそうした心配がなくなります。

加えて、同一モデルを別メディアで利用するのも容易なので、「『AIモデル』で作成したモデルをブランド独自のイメージキャラクターとして採用する」といった施策も検討できます。生成AIをそのまま用いると、まったく同じ顔を何度も生成することは現時点(※)では不可能なので、「同一モデルを使い続けられる」という点は大きな強みです。

  • 注釈2025年1月時点

とあるアパレルブランドでは、「AIモデル」で自社のイメージに最適化されたモデルを作成しています。コーディネイト着用画像をECサイト上で展開することで、クリック率や売上を向上させた事例もあります。

「AIモデル」で作成した着せ替えコンテンツは、ECサイトだけでなく店頭でのインタラクティブなショッピング体験の提供にも活用できるため、今後ますます導入が増えていくのではないかと期待しています。

「AIモデル」で作成したモデルが、さまざまな業界で使用されている

4. パーツモデル採用や表現上のリスクまで。AI活用時代に光るディレクション力

「AIモデル」の活用を織り込んだ上で、クライアントにどのような提案ができると考えていますか?

モデルが必要とされるクリエイティブの制作現場全般で、業務の効率化・低コスト化の一つの手段として提案に組み込んでいきたいと思っています。横顔の合成が苦手といった弱点はまだまだあるものの、すでに採用していただいたクライアントには「AIを使っているとは全然思えない出来だ」と言っていただけることが多く、おおむね好評です。「AIモデル」によって制作の負担が軽減する分、より訴求力の高いクリエイティブの企画や細やかな改善にリソースを回せるので、制作物のクオリティの向上も大いに期待できます。

また、「AIモデル」を導入すると、パーツモデルが必要になるケースが多くなります。パーツモデルの選定については、そこでは通常のモデルのオーディションとはまた異なるノウハウが不可欠になってくるものであり、知見がなく慣れていないクライアントも多いと思います。その点もDCDはしっかりと現場でディレクションができるので、「AIモデル」の導入のハードルを下げられるでしょう。

クライアントによっては「『AIモデル』で制作したモデルが実人物と酷似してしまわないか?」というリスクを気にされる方も少なくありませんが、その点もリサーチをかけながら「モデルを生成する際の教師データに著名人を含めない」「PC上の類似検査で、実人物との適合率が80%を超えたら使用しない」さらには「目視による類似性検査を2~5名で行う」などのルールを設けて、問題が起きないようにケアしています。DCDでは著作権や肖像権の保護を重視し、必ず権利関係を確認して取り扱っています。

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今後もさらにAI活用の可能性は広がっていくと思いますが、どのような姿勢でAIと向き合っていきたいですか

AIの進化が進むことで、今よりも簡単に、どんな人でもクオリティの高い制作物を作れる世の中になっていくと思っています。ただし、どんなにAIが賢く便利になったとしても、それらはあくまでサポートツールです。AIを用いること自体が目的化してはいけません。そのことを肝に銘じて、クライアントとAIがうまく協働する関係を構築しながら、より訴求力の高いブランドコミュニケーションの実現に向けた働きかけを心がけています。

ビジネス上で安易に使うにはリスクが大きい側面もありますが、気をつけて活用をすれば、AIは心強い制作パートナーになってくれます。まだまだAIツールに抵抗のあるクライアントも少なくないので、DCDだからこそ実現できるリスク管理の体制をしっかり訴求しつつ「私たちがサポートするので、まずは使ってみて効果を体感しませんか?」と、積極的に提案していきたいですね。

  • 注釈2025年3月時点の情報です。

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