深層心理に刺さるクリエイティブで勝ち抜く、クッキーレス時代のWeb広告

▼語り手プロフィール
株式会社DNPコミュニケーションデザイン
西日本CXデザイン本部
鈴木 秀和/Hidekazu Suzuki

今、Web広告の世界が大きな転換期を迎えています。広告の効果測定などに不可欠な「Cookie(以下、クッキー)」の規制が強化され、これまで高いパフォーマンスを上げていた広告スキームが通用しなくなってきています。本記事では、クッキー規制が進む環境下で、さらなる広告効果の底上げをめざすために、「クリエイティブの可能性」に着目し、生活者が思わず行動に移したくなるような説得力あるクリエイティブ提案について、株式会社DNPコミュニケーションデザイン(以下、DCD)の鈴木秀和が解説します。

1. ポストクッキー時代、広告効果のカギを握るのは「クリエイティブ」

クッキーの規制が進む中で、広告効果を高めるためにはどんなことが重要になるのでしょうか?

まず前提として、広告効果を高めるためにできることには、大きく「広告運用の最適化」と「クリエイティブの最適化」の2つがあります。これはどちらかを優先させるべきという話ではなくて、基本的にはWeb広告の車輪の両軸と捉えて、双方の改善に取り組むことが重要です。

「広告運用の最適化」では主として、媒体や配信先を選定する「プレイスメント」と、どんな属性をセグメントするかの「ターゲティング」を検討し、運用の精度を高めていきます。昨今では主要な広告メディアの寡占化が進み「プレイスメント」による差がつきにくくなってきています。そして「ターゲティング」についても、クッキー規制によって精度が低下しており、それを補うように広告媒体側で、自動で最適化する技術が生まれるなど、こちらも運用調整での差別化がむずかしい状況(※)にあります。

一方で、クリエイティブにはまだまだ差別化の余地が大きく残されています。届けられる広告に触れた生活者を最終的に動かすのはクリエイティブです。広告効果を高めていくためには「クリエイティブの最適化」をすることが重要であり、DCDでは特に注力しています。

プレイスメントやターゲティングで差がつかなくなる中、「クリエイティブの最適化」が広告効果改善のカギに

広告効果を高める「クリエイティブの最適化」とは、どのようなものですか?

多くの生活者がデジタルデバイスを日常的に使用するようになって、広告に触れる機会が増えています。日々膨大な情報が届く中で、生活者に親和性のある広告が届けられたとしても画一的なビジュアルやメッセージでは、注意を引けずにスルーされてしまうでしょう。実際、クライアントから「ありきたりな訴求や自社視点でのメッセージになってしまい、成果が上がらない」という悩みの声も少なくありません。

制作会社もクライアントから特に要望がなければ、過去に作ってきた中で効果の高かったデザインやコピーなどを、よかれと思って踏襲し続けることが多くなります。デザインを変える場合も担当者の好みでデザインが決まりがちなことから、こうした課題が発生するのだろうなと感じています。

広告効果を高めるためには、広告主が伝えたいことを訴求し続けるのではなく、生活者が自分事として感じて自然と興味を持ちアクションをおこすようなクリエイティブを作り、磨いていくことが必要だと考えています。
そして、デザインやコピーなどを含めたクリエイティブの質を上げて他社としっかり差別化を図ることが、Webでの広告効果を上げるカギとなる可能性が高いのです。

2. DNPの行動デザインと「IGUD」、他社にはない独自メソッドがWeb広告の質を底上げする

「広告としてのクリエイティブの質を高める」ために、DCDでは具体的にどのような提案をしているのでしょうか?

Web広告のクリエイティブにおいては「ただ見た目がキレイ、インパクトがある」というだけでは成果につながるとは限りません。また、広告クリックを狙ったインパクト重視のクリエイティブを作り、ランディングページに誘導できても、ランディングページを見た生活者が求めるものと実際の商品・サービスにギャップを感じ、コンバージョン(以下、CV)につながらないケースも多々あります。

ターゲットを明確にし、想定顧客のニーズに沿ったメッセージを届け、行動変容を促すことができるものこそが、広告として質の高いクリエイティブと言えます。

ターゲットのニーズに合致した広告コンテンツが重要

DCDは広告効果の高いクリエイティブを再現性の高い方法で作っていく独自のノウハウを持っています。ここでは代表的なものを2つほど紹介させてください。まずひとつは、DNPの行動デザイン(※1)という概念を用いた「DNP行動できる®︎メソッド」(※2)です。

DNPの行動デザインとは、行動経済学や行動科学の知見をもとに、人の行動変容や習慣化を支援するデザイン手法です。生活者が「やらなければいけない、するべきだ」と思いながら、なかなかできないことについて、製品やサービス、環境のデザインを通じて、その行動の実現を後押ししていきます。

DNPの行動デザインイメージ

もうひとつは、生活者に届きやすいビジュアルを制作するためのメソッド「IGUD」です。IGUD(※3)とは、情報をイラストや図表で視覚的にわかりやすく表現するインフォグラフィックス(IG)と、多様な人々にとっての使いやすさを重視したユニバーサルデザイン(UD)を融合させた独自のデザイン手法です。

「DNP行動できるメソッド」と「IGUD」を掛け合わせたクリエイティブによって、ターゲットに「行動の障壁を解消」を促す広告メッセージを届けることができます。
クリエイティブの内容と、ターゲットのニーズが合致するので、ギャップなく商品やサービスなどの広告対象へ誘導ができます。

3. 「行動障壁×ナッジ」で、ターゲットの深層心理に刺さる要素を見いだす

具体的にどのような形で広告制作に生かされていくのでしょうか?

光熱費の契約獲得のためのWebプロモーション事例をご紹介します。ターゲットとなる生活者はどんな人なのか?なぜ契約につながりにくいのか?どのようにすれば行動変容させられるか?を「DNP行動できるメソッド」を活用して組み立てていきました。 

ターゲットを代表するペルソナを立て、好むことやどんな生活をしているか、どんな時に広告に触れてどう感じるかなどインサイトを含め具体的に言語化をしていきました。そのペルソナが行動しない理由「行動障壁」になっていることを深掘りしていくと、「そもそも切り替えに興味が薄く自分事に感じていない」「面倒に感じることや、苦労がかかると思い込んでいる」「どのサービスも大差なく一緒だと思って比較検討しようとしていない」といった要素が、契約に至るまでのアクションを大きく阻害しているという仮説が導き出されました。

「DNP行動できるメソッド」を活用して明確にしたターゲット像

こうした「行動障壁」を自然と乗り越え行動に移すように促すにはどうしたらいいか、そのアプローチを考えるのにナッジを活用していきます。ナッジ(nudge)とは、「軽くひじ先でつつく、背中を押す」という意味の英語で、「行動をそっと後押しする」という手法で使われます。直接的に行動を促し、誘導するのではなく、ナッジを活用して、ターゲットが自然と行動に移すようなアプローチを検討していきました。

例えば、切り替えキャンペーンでお得さを訴求しても「興味が薄く自分事として感じていない」という障壁には、「利得よりも損失を示した方が人は動く」というナッジを使って、広告メッセージを変えていくといった感じです。

ターゲットの行動を促す広告の例

4. Web広告こそ、顧客視点・コンテンツ視点が重要! ランディングページや動画にも、打ち手の可能性は無限大

こうしたクリエイティブのメソッドをプロモーション施策に取り入れた際に、具体的にはどのような成果が得られますか?

現在さまざまな案件でこのメソッドを取り入れた施策を展開し始めています。Web広告では、これから効果測定をする事例が多いので、現時点では統計的なデータなどは出しにくいのですが、三井住友カード株式会社様のDM制作の案件(※)では、このメソッドを用いたクリエイティブで従来DMより約3倍の効果を得られました。

  • 注釈全日本DM大賞日本郵便特別賞に入賞した三井住友カード株式会社様のDM制作について、詳しくはこちらをご覧ください

Web広告で導入した案件でのクライアントのリアクションについては、今までネガティブな反応をもらったことはないですね。「プロセスが明瞭で信頼感、期待感が持てる」と好評です。また窓口となる担当者が「社内で上長に提案する際にも、クリエイティブに対して好みに左右されないロジカルな根拠を示せるので、案が通りやすい」と言ってもらえることが多いです。

DCDが持つクリエイティブについてのさまざまなノウハウを、どんなクライアントに活用してほしいと考えていますか?

Web広告が成熟してきて、「これまでのやり方ではなかなか成果が出ないな」と感じているWeb広告担当者に、ぜひこれまでとは違うアプローチとして、クリエイティブを磨いていく取組みを活用いただき、一緒に進められたらうれしいですね。運用施策の面ではいろいろとやり尽くして手詰まりかもしれませんが、あらためて顧客視点やコンテンツ視点でクリエイティブと向き合うことで、まだまだ効果を上げるための打ち手はたくさん見えてくると思っています。

ターゲットとアクションの設定が丁寧に言語化できれば、そこを起点に幅広い施策の可能性を見いだせるのが、私たちの持つクリエイティブのノウハウの特徴です。それは単にWeb広告バナーのクリエイティブだけに活用するものではなく、広告コピーや遷移先のランディングページ、動画コンテンツなど、ターゲットとのさまざまなタッチポイントで活用でき、効果が期待できます 。

5. ユーザーを騙さない。真摯な広告で、長期的なブランディングも視野に

今後DCDとして、クライアントのマーケティング支援のために、どんな提案をしていきたいですか?

現状の広告には、CVを優先するあまり、表現の倫理性を欠いてしまっているケースも散見されます。たとえそれで短期的に数値が上がっても、ブランド全体にネガティブな印象を与えている可能性もあると思います。目先の効果だけを追って、ユーザーを無駄に扇動しすぎず、心から「自分に有益だ」と思ってもらった上で行動させるようなクリエイティブにしていくことが大切です。

DCDでは今後とも、目に見える成果を追っていくことも尊重しつつ、長期的なブランディングにおける貢献度も視野に入れた、包括的なマーケティング戦略を立案していきたいと思っています。

本質的な成果を求めていくためには、Web広告だけでなく、各チャネル、各ターゲットに適切なメッセージの出し分けが必要になってきます。                         
ひとつの獲得施策だけではなく、生活者とのさまざまなタッチポイントにおいて「DNP行動できるメソッド」やMA(マーケティングオートメーション)などを活用し、ターゲットごとに受け入れられやすいコミュニケーションを進めていくことで、ブランドに対するエンゲージメントも広告効果も最大化していけるはずです。

Web広告運用に限らず、「顧客にどう情報を届けるべきか?」という漠然とした悩みからでも、ぜひ相談してくださるとうれしいです。ブランドや商品の魅力を最大化していくための抜本的な課題解決を、企画・戦略の初期段階から一緒に取り組んでいきましょう。

  • 注釈2025年3月時点の情報です。

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