【大阪・関西万博 ニプロ様×DNP(前編)】アニメーションで伝える企業の想い。ニプロ様の大阪・関西万博ブースの挑戦的アプローチ

ニプロ株式会社
MDX戦略部 部長代理
中野 敦行様/Atsunori Nakano(写真中)
大日本印刷株式会社
情報イノベーション事業部
小椋 久彰/Hisaaki Ogura(写真左)
株式会社DNPコミュニケーションデザイン
関西第1CXデザイン本部 課長
田辺 洋/Hiroshi Tanabe(写真右)
10月13日、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)は約半年の会期を終え、大盛況のもとに幕を下ろしました。大阪府に本社を構える総合医療メーカーのニプロ株式会社(以下、ニプロ)様は、大阪ヘルスケアパビリオンに出展。2050年の未来を舞台にしたオリジナルのアニメーションで、特殊な技法を用いた立体的な映像表現やインタラクティブな要素を盛り込んだ体験型コンテンツを展開し、約15万人もの観客動員を記録しました。
このプロジェクトを支えたのは、大日本印刷(以下、DNP)とDNPコミュニケーションデザイン(以下、DCD)の総合力です。2050年の医療を表現するコンセプト設計から、企画段階でのワークショップの実施、アニメーションの制作、会期中の運営までをDNPグループが一体となって担い、「展示をしない展示」という挑戦的な狙いを持ったブースを実現させました。
本記事では、このプロジェクトに携わったニプロの中野敦行様、DNPの小椋久彰、DCDの田辺洋が、大阪ヘルスケアパビリオンでのブース制作・運営の全容を語ります。前編では、プロジェクトの背景と、「オモウ=チカラ」というコンセプトが生まれるまでのプロセスをひも解きます。
1. 地元開催の大阪・関西万博で、世界と未来に向けたコーポレートブランディングを
今回ニプロ様が大阪・関西万博で大阪ヘルスケアパビリオンに出展したブースは、どのような内容だったのでしょうか?
ニプロ・中野様:大阪ヘルスケアパビリオンの出展テーマは「REBORN(リボーン)」で、"「人」は生まれ変われる"、"新たな一歩を踏み出す"という意味が込められています。ニプロは、このパビリオンのメイン体験であるリボーン体験ルート内の「ミライのヘルスケア2」ゾーンに出展しました。
ブースでは、2050年の未来を見据えた「衛生」「遠隔診療」「再生医療」「透析治療」の4つの分野における医療技術を3Dアニメーションで紹介し、来館者に2050年の医療を体験してもらうという内容です。
アニメーションは「さくら」と「エリサ」という2人の主人公が登場し、ニプロの社是である「意欲」を物語の軸にすえたストーリーで、人の想いがよりよい未来を創っていくプロセスを、さまざまな医療課題の解決を通じて表現しました。

- 注釈ニプロ様ブースについて、詳しくはこちらをご覧ください。(アニメーションもご覧いただけます)
ニプロ様が万博への出展を決めた経緯と目的について教えてください。
ニプロ・中野様:ヘルスケアパビリオンの館長である西澤良記先生と弊社会長につながりがあり、そのご縁から出展の誘いを受けました。
ニプロは大阪府に本社のある医療機器・医薬品メーカーです。大阪の企業として、地元で開催される万博で未来に向けたメッセージを発信することに、大きな意義を感じました。具体的にはグローバル、海外のお客様に対する認知の向上をめざしています。それに加えて、これから大きくなる子どもたちへ、私たちのビジョンやめざす未来を伝えることで、この産業の担い手を増やしたいという思いもありました。
2. カギは「インパクト」、強みを生かしたアニメーションでのストーリーテリング
DNPがニプロ様のブース制作を受注するまでの経緯をお聞かせください。
DNP・小椋:ニプロ様とは10年以上前からお付き合いがあり、これまでにも医療従事者向け研修施設「iMEP(アイメップ)」の企業ショールームの設計を2度にわたって担当しています。そこでの空間設計の実績が評価され、大阪・関西万博の大阪ヘルスケアパビリオンでのブース展示について、コンペでの提案機会をいただきました。
ブース展示で、なぜ「アニメーション」という表現手法を選んだのでしょうか?
DCD・田辺:前提として、万博のルールで「自社の製品を展示することや、PRしてはいけない」という縛りがありました。具体的な製品を出さずに、ニプロ様の社会への想い、めざす未来を示す上で「アニメーションを活用したストーリーテリング」が最適解だと考えました。
アニメならば、少しとっつきにくい医療の技術的な話や、抽象度の高い未来の様子を、わかりやすく伝えられます。キャラクターの演技を通して観客の感情移入を促すことで、これからの未来を担う当事者としてメッセージを受け取ってもらう狙いもありましたね。
ニプロ様がコンペで特に重視していたのが「インパクト」でした。大阪ヘルスケアパビリオンの館内に、たくさんのブースが並ぶ中で、いかに目を引き、印象的な場にできるかが焦点になります。「ジャパニメーション」は日本の強みであり、世界中から訪れる万博の来場者の心に留まるコンテンツになるはずだと思いました。
コンペでの提案で、得に意識的に訴求したポイントは?
DNP・小椋:いかにインパクトを残せるかを意識しました。プレゼンテーションのために、アニメーションの世界観を伝えるデモ映像を制作しています。オリジナルのキャラクター案だけでなく、既存のアニメーション作品とのコラボレーションする案も見せ、より完成形のイメージが浮かびやすくなるように工夫しました。
DCD・田辺:内容面では、ニプロ様の社是である「意欲」と、長年の事業の中で培ってきた「力(技術力)」を掛け合わせた「オモウ=チカラ」というコンセプトを掲げることで、企業としてのスタンスがしっかりと伝わるコンテンツであることを訴求しました。DCDではアニメーション制作の実績も多々あるので、そのあたりのクオリティの高さも映像から感じてもらえたのではないかなと思います。

ニプロ・中野様:4社のプレゼンテーションの中で、DNPさんの提案が最も心に残りましたね。「ニプロがめざす未来」が具体的に提示されるようなイメージがわいた点、運営体制も含めたブースの完成形を明確に示してくれた点で経営陣の評価が高く、皆さんにお願いすることに決めました。
3. 事業部の壁を越えて。事前のワークショップが生んだ成果
今回のブース制作において、DNPが担当した業務の範囲は?
DNP・小椋:全体の企画やコンセプトの設計に始まり、その後は具体的なコンテンツであるアニメーションとブースの空間及び上映装置の設計や設営、会期中のブース運営まで一貫して対応しています。
DCD・田辺:そのうち、DCDはキャラクターデザインや台本制作を含めたアニメーションの制作と、事前のスタッフの教育やマニュアル作成を含めた会期中のブース運営のオペレーションを担当しました。
初期のコンセプト設計の過程で、ワークショップを実施したと伺っております。どのような意図・目的で、どのような内容の施策を実施したのでしょうか?
DNP・小椋:アニメーションを通して観客に提示する「『オモウ=チカラ』で変わる2050年の未来像」を明確にするために、ニプロ様の各事業部の代表者21名を集め、さらにDNPメンバー12名が加わりワークショップを実施しました。
ワークショップでは、これまでDNPが培ってきたサービスデザインの手法を活用しています。さまざまな「2050年の社会課題」と「ニプロ様のコア技術」を掛け合わせながら、ニプロ様が未来の医療や暮らしをどう変えていけるかを議論し、各事業部の視点から多様なアイデアが抽出されました。

ワークショップで得られた成果は?
ニプロ・中野様:「ニプロがめざす未来」がより具体的になったのが、大きな収穫です。たとえば遠隔診療の未来の表現について、ワークショップ以前は「家にいても診察が受けられる」くらいの粒度で想定していました。ただ、それは現在の技術でも実現可能なものであり、2050年の未来として描くにはインパクト不足だという指摘が上がっていたんです。
ワークショップを通してその点を議論したところ、「2050年には、日々のモニタリングを通じて、病気になる前に診察から処置までを実現できないか」とか、「デバイスを身に着けるだけでなく、人体に埋め込むことでセルフメディケーションを実現できるのでは」といった意見が出ました。遠隔診療とAI技術を掛け合わせ、病気になる前に異変を教えてくれる予防医療の観点が追加されたことで、より未来への期待感を持ってもらえるような方向性になったかな、と感じています。
DCD・田辺:こうした未来のビジョンを「衛生」「遠隔診療」「再生医療」「透析治療」の4つの分野でそれぞれひも解いていって、オリジナルキャラクターの設計やアニメーションの要素を固めていきました。さまざまな事業部の方々が一堂に会し、それぞれの専門性を持ち寄ってじっくり話し合う機会は、参加者の皆さんにとっても新鮮だったようで、かなり盛り上がっていましたね。
ニプロ・中野様:普段の業務では異なる事業部メンバーと話すことが少ないこともあり、ワークショップであらためて各部署の技術や考えを相互に共有できたことで、社内の仲間意識が強まりました。
このワークショップがあったからこそ、会期中も各事業部が自分事としてブースの運営に参加してもらえたのだろうな、と感じています。インナーブランディングの観点からも、今回のワークショップで事業部同士の横のつながりが強まったことは、今後の組織に大きなプラスになるのではと感じています。
- 注釈2026年1月時点の情報です。