【大阪・関西万博 ニプロ様×DNP(後編)】世界中の来館者に響く体験設計 。DNPの総合力が実現させた、グローバル対応とインタラクティブなブース運営

ニプロ株式会社
MDX戦略部 部長代理
中野 敦行様/Atsunori Nakano(写真中)
大日本印刷株式会社
情報イノベーション事業部
小椋 久彰/Hisaaki Ogura(写真左)
株式会社DNPコミュニケーションデザイン
関西第1CXデザイン本部 課長
田辺 洋/Hiroshi Tanabe(写真右)
10月13日、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)は約半年の会期を終え、大盛況のもとに幕を下ろしました。大阪府に本社を構える総合医療メーカーのニプロ株式会社(以下、ニプロ)様は、大阪ヘルスケアパビリオンに出展。2050年の未来を舞台にしたオリジナルのアニメーションで、特殊な技法を用いた立体的な映像表現やインタラクティブな要素を盛り込んだ体験型コンテンツを展開し、約15万人もの動員を記録しました。
184日間、一度も大きなトラブルなく運営を完遂したニプロ様の大阪・関西万博、大阪ヘルスケアパビリオンの展示ブース。その成功は、来館者とのコミュニケーション設計や150ページに及ぶマニュアル作成と運用による実績を重ねたこと、会期中の継続的な接客の改善など、運営陣の弛(たゆ)まぬ努力によって支えられていました。
後編となる本記事では、実際のブース設営・運営における課題と解決に至るまでの工夫、出展によって得られた成果や今後の展開について、プロジェクトに携わったニプロの中野敦行様、大日本印刷(以下、DNP)の小椋久彰、DNPコミュニケーションデザイン(以下、DCD)の田辺洋が語ります。
1. 映像を「視聴」ではなく「体験」として成立させるために
今回制作されたアニメーションやブースの見せ方で、特に工夫された点や注力されたポイントについて教えてください。
DCD・田辺:ただ一方的に映像を観せるだけでなく「体験」として成立させることを重視しました。
当初より、大阪ヘルスケアパビリオン側から「体験として成立するコンテンツにしてください」というオーダーがあったんですね。そのため、映像の導入部分で、キャラクターが観客とインタラクティブなやり取りをするようなしかけを考えました。
具体的には、アニメーションに出てくるキャラクターが動き回りながら、観客に「どこから来たの?」などと呼びかけ、映像に表示された選択肢のどれかを指さして回答してもらいます。その結果を反映して、たとえば英語圏の観客が多い場合には、キャラクターが英語で話し始める……といった演出を取り入れました。

DNP・小椋:体験性を高める工夫として、映像に奥行きを持たせる特殊な表現技法を活用した「立体視」の表現も導入しています。会場への機材の搬入は開幕直前までできなかったため、事前の打ち合わせではVR上の仮想空間で実際の展示ブースの環境を構築し、そこでシミュレーションを何度も重ねながら、最適な見え方になるように細かな調整を重ねました。
ニプロ・中野様:アニメーションの内容も、約7分という短い尺の中でニプロらしさ、ニプロが「オモウ(意欲)=チカラ(技術力)」で実現しようとしている未来を、うまくまとめていただきました。特に「衛生、遠隔診療、再生医療、透析治療」というニプロの注力している4つの分野において、技術が進歩すると具体的にどんな医療課題が解決され得るのか、とてもわかりやすく描かれています。

DCD・田辺:ストーリーとしては、国籍も関係なく、子どもから大人まで楽しめる普遍的な物語になるよう意識しました。メッセージの密度を保ちながら、冗長性を排除して、観客を飽きさせない尺にまとめられたのではないかなと感じています。
2. さまざまなリスクを想定 ― 継続した運営を実現させるための綿密な準備
会期中のブース運営で、特に苦労された点や工夫された点はありますか。
DCD・田辺:あらゆるリスクを考慮した上で、スタッフがどんな状況でも問題なく対応できるように、150ページほどの運営マニュアルを作成しました。地震などの天災、スタッフの不在、機材トラブルなどあらゆるシチュエーションを想定して、そこで取るべき行動などを詳細にまとめています。
接客スタッフの事前教育にも注力しました。マナー講師を呼んで、笑顔や発声練習などの指導をしてもらっています。会期中も日々現場からのフィードバックを踏まえて、呼び込みの声かけの方法や観客の退場を促す動線など、細かい運営フローの改善を繰り返していきました。

DNP・小椋:万博は半年間というほかに類を見ない長期のブース運営であり、それに耐え得る運営設計が求められました。
中でも気を遣ったのが、機材のチェック体制です。目視点検と機材チェックの細かなフローを運営に組み込んで、トラブル発生時には各担当者にアラートが来る仕組みを構築しました。予備の部品も会場に用意し、不具合があればすぐに対応できるようにしています。
3. 15万人超えの来館者、グローバルへの発信にも手応え
実際にブースに訪れたお客様からは、どのような反響がありましたか?
ニプロ・中野様:印象的だったのは、多くの子どもたちが楽しそうにアニメーションを見てくれたことです。「将来は医療系の仕事に就きたい」という子もいて、彼らが目を輝かせて映像を見入っている現場に立ち会えて、本当にやってよかったなと感じました。地元の方から「ニプロさんもブース出しているんだね」と言っていただく機会も多く、認知されている実感を得られたこともうれしかったですね。
また、多言語対応もしてもらえたおかげで、海外からの来客の皆さんからも高い評価をもらっています。ベルギー王国王女殿下・王子殿下やレソト王国国王、モンゴル国副首相といった各国の要人の方々にもニプロのブースに足を運んでいただけて、グローバルに向けたプロモーションにもつながりました。
DCD・田辺:事前に定量的な目標として「会期中のブース来館者数・15万人、ブースからの送客でInstagramのニプロ公式アカウントのフォロワー数5,000人達成(約4,000人の増加)」を掲げていました。結果的に来館者数はトータルで155,372名、フォロワーは4,307人増加で着地し、どちらも達成することができました。

事前準備を徹底的にしたかいもあって、会期中に想定外のトラブルなどもなく、ブース運営が滞ることはありませんでした。半年の間、不測の事態や大きな問題が何も起こらなかったことが、私たちにとっては最大の成果だと感じています。
4. 事業間の連携を強化して、不確実性の高い社会課題に向き合う
万博でのブース出展を終えて、どのような手応えを感じていますか?
ニプロ・中野様:企業PRとしての手応えはもちろんですが、ワークショップやブース運営を通して事業部を超えた連携が強化され、お互いの仲間意識が強まったことが、大きな財産だと感じています。
不確実性の高まる社会の中で、私たちはこれからより難しい課題に向き合っていかなければいけません。そこを一丸となって協力して乗り越えていけるような素地(そじ)が、今回の一連の経験の中で培われた気がします。社内でも振り返りを実施しており、真のグローバル総合医療メーカーとして今後どのような世界観を持って事業に取り組んでいくべきか、建設的な議論が広がっています。
DNP・小椋:今回はニプロ様の「本質的な精神」を可視化することを起点に、体験型のコミュニケーションに落とし込むことがうまくできたと感じています。そして、自社の社会的価値を再確認するプロセスが、企業と従業員のエンゲージメント向上につながっていくことを、あらためて実感できました。また、社外に向けたブランディング活動においても高い効果を発揮できました。
DCD・田辺:今までにない大規模な来場者数・グローバル対応での長期間にわたるブース運営のノウハウを得られたのは、とてもいい経験になりました。今回得られた知見を生かしつつ、今後もニプロ様をはじめとしたさまざまな企業の社会的価値を、社外と社内それぞれに伝えていく橋渡しができればと思っています。
- 注釈2026年1月時点の情報です。