神社仏閣から企業遺産まで ― 3拠点連携で進化するDCDの3Dデジタルアーカイブ戦略

株式会社DNPコミュニケーションデザイン
関西第1CX本部 部長 冨塚 佑樹/Yuki Tomizuka(写真中央)
中部CXデザイン本部 齋藤 真太郎/Shintaro Saitou(写真右)
CBデザイン本部 石井 俊行/Toshiyuki Ishii(写真左)
後世に残すべき価値あるものを、高精度な2Dデータ撮影や3D技術でデジタル保存する「3Dデジタルアーカイブ」。近年は、文化財保護への関心の高まりや技術の進歩により、その需要が全国的に拡大しています。
DNPコミュニケーションデザイン(以下、DCD)では、ベテランカメラマンがリスキリングを行い、最新のフォトグラメトリなどの3D撮影技術を習得することで、拠点を東京だけでなく、中部・関西にも拡大しました。全国規模で3Dデジタルアーカイブ事業を展開し、神社仏閣から企業遺産まで幅広い対象をアーカイブしています。
本記事では、各拠点で3Dデジタルアーカイブ事業をけん引する3名が、事業の特徴や全国展開の強み、そして今後の展望について語ります。
1. DCDが手がける3Dデジタルアーカイブとは? 保存から活用までを見据えた設計
DCDが手がけるデジタルアーカイブとは、どのような事業なのでしょうか?
石井:DCDのデジタルアーカイブは幅広い対象を扱っています。最もわかりやすい例は、平面の書類や写真、絵画をデジタルデータとして残す取組みです。大日本印刷株式会社(以下、DNP)では障壁画・屏風・掛け軸などをデジタルアーカイブするとともに複製で再現する「DNPデジタル高精細複製 伝匠美®」(※)というサービスを展開していて、DCDでは主に関西のチームが携わっています。
- 注釈「DNPデジタル高精細複製 伝匠美®」について詳しくはこちらをご覧ください。
私たちが携わる案件で多いのは、建物や収蔵品など、立体物の3Dデジタル化です。そのほか、昔のフィルムや動画、録音などもデジタル化したことがあります。珍しい例では、無形文化財の保存・伝承を目的として、鳥取県の麒麟獅子舞の動きをモーションキャプチャーでデジタル化することもありました。

齋藤:立体物・建築物のデジタル化の対象は、美術館の収蔵品や神社仏閣にとどまらず、企業が所有する機械や建築物などへとニーズが広がっています。保存の目的はさまざまですが、建築物であれば、耐震強度の問題から建て替えや取り壊しが必要になった際に、記録として残しておきたいという理由が多いです。
動画:世界遺産 仁和寺 国宝『金堂』 の高精細3DCGデータを制作(0:33)
3Dデジタルアーカイブでは、データ化した後の活用を見据えた設計が重要だと伺っています。
冨塚:DCDでは単にデジタル化して保存するだけでなく、Webや美術館などの施設内の端末で閲覧できるコンテンツなど、データを利活用するためのアウトプットまで手がけられるのが特徴です。
利活用するのであれば、あらかじめその用途に適した形式や精度でデジタル化する必要があります。私たちはデータを作成する前にクライアントとの綿密なコミュニケーションを重ねることで真のニーズを把握し、最適なアーカイブ手法を提案するよう心がけています。
2. 全国的に高まるニーズ、対応するプロフェッショナルたち
3Dデジタルアーカイブの需要が全国的に高まっているそうですが、それはなぜでしょうか?
石井:3Dデータを用いて記録し保存することや、昨今では鑑賞できるテクノロジーの認知度が上がり、その有用さが理解され始めたからだと感じています。
DCDでは約10年前にフランス国立図書館(以下、BnF)からの依頼で地球儀・天球儀のデジタルアーカイブを手がけるプロジェクトに加わり、55点の3Dデジタルデータ化を実施しました。さらに、それらを新たな視点で鑑賞する展覧会「BnF × DNP ミュージアムラボ 第1回展『体感する地球儀、天球儀展』」が開催され、高精細3Dデジタルビューワで「3D地球儀・天球儀」が鑑賞できるようにしました。
動画:BnF × DNP ミュージアムラボ 第1回展 Globes in Motion フランス国立図書館 体感する地球儀・天球儀展(4:52)
参考記事:大日本印刷とフランス国立図書館 2/19~9/4に「体感する地球儀・天球儀展」を開催
その後、2022年の博物館法の改正にて、デジタルアーカイブを推奨する項目が新たに明文化されます。こうした背景も踏まえたデジタルアーカイブ需要の高まりを見込んで、全国各地からのニーズに応えられるよう、体制を整えました。
DCDでは、どのような体制づくりを行ったのですか?
石井:社内で撮影できるメンバーを増やしたく、スチール撮影を担当するベテランのカメラマンが、3Dデジタルアーカイブの撮影にも対応できるようリスキリングしました。経験豊富なカメラマンには、3Dデジタルアーカイブの独特な撮影の難しさに対応できるポテンシャルがあります。これからニーズが増えてくるであろう領域で自身の高い技術力を生かすために、新たなチャレンジに積極的に向き合っている姿は、とても心強く感じています。
冨塚:以前、大規模な案件に取り組むにあたって、最初に勉強会を開催しました。実際に建築物の撮影をして、その後のデータ処理の工程を解説することで、注意点やコツを学んでもらいました。
一般的なスチールの撮影と比較しても、3Dデジタルアーカイブの撮影は独特なんです。複数名で作業を進めるので、個々に表現的なクセがあると3DCG化するときに使いにくいデータになってしまいます。そのため、個性を出さないような撮り方をする必要があります。

皆さんが3Dデジタルアーカイブに関わることになった経緯を教えてください。
冨塚:私は元々映像制作を専門とする部署にいて、スペースデザインにおけるインタラクティブコンテンツの設計ディレクションなどを担当していました。3Dデジタルアーカイブに初めて関わったのは、とある企業の周年事業で、創業家の邸宅の保存を依頼されたのがきっかけです。以降、主に関西エリアでの3Dデジタルアーカイブの案件で、クライアントとの折衝や進行管理を担っています。
齋藤:私はスチールカメラマンとして、インテリアや工業製品など、幅広いジャンルの商品撮影を行っていました。6年前、石井さんから声がかかり、京都にある仁和寺の3Dデジタルアーカイブのプロジェクトにカメラマンとして参加したんです。
3Dデジタルアーカイブは長く保存し、活かすもの。そんな側面にやりがいを感じて、継続的に3Dデジタルアーカイブの仕事に携わっています。
石井:私もキャリアとしては広告・カタログのスチールカメラマンから始まって、そこから3DCGを用いた広告媒体の制作にも携わるようになりました。そして、フランス国立図書館の案件から3Dデジタルアーカイブの領域に踏み込み、今ではそれがメインの仕事になっています。
現在は建築物のアーカイブを中心とした大がかりな撮影規模の案件に携わることが多く、現場で撮影全体のクオリティを管理するような立ち回りを担っています。
3. 多彩なスタッフの強みを生かした先鋭たちによるチーム力で対応
DCDの3Dデジタルアーカイブ事業の特徴について教えてください。
齋藤:クライアントの目的や予算に合わせて、幅広いプランニングができることは強みです。技術的に対応できる幅が広いので、その後の利活用の方向性も踏まえて、いくつかのグレードに分けたプランを提案できます。また、データ化した後の活用についても、社内のXR・3DCGコンテンツ制作に長(た)けたチームにつなぐことで一貫して対応できます。

- 注釈バーチャルプロジェクションとは:スタジオの大型スクリーン等に3DCGの仮想的な背景等を投影し、その前に人や物を配置すること。銀座四丁目交差点バーチャルプロダクションでは、高精細3DCGデータを制作した。
地域ごとに案件の傾向や特色はありますか?
冨塚:私は主に関西エリアを担当しています。特に京都や奈良は歴史的な建造物や文化財が多く集まる場所であり、他拠点と比較しても3Dデジタルアーカイブの案件は多いですね。対象としては神社仏閣や企業が所有している古い建造物がメインです。
齋藤:私は中部エリアの拠点にいます。中部エリアでの案件自体は、まだ少ないのですが古くから続く企業も多いので、関西や関東の案件で事例を増やしながら、周年事業等の新たなニーズを発掘していきたいですね。
石井:私は関東エリアにいるものの、オーダーがあれば全国各地の案件に携わっています。エリアごとの差異はそこまで大きくはないですが、関東は関西よりも博物館に関わる案件が若干多いように感じています。
冨塚:現状、それぞれの地域に特化して対応するというよりは、案件ごとに適性のあるプロフェッショナルが全国から結集する……といった対応が多いですね。
石井:そうですね。得意とする対象や工程も人によって違うので、それぞれの強みを生かした分業体制で、総力的にクライアントの課題解決に臨んでいます。
4. 「季節の移ろい」まで鮮やかにアーカイブできる未来が来る? トレンドを捉えて市場の拡大へ
今後、DCDの3Dデジタルアーカイブ事業をどのような形で発展させていきたいですか?
冨塚:現状の3Dデジタルアーカイブでは、まだ十分に対応しきれていない領域があります。たとえば、「文化財の建築物が災害などで倒壊してしまった際に、正確な復元に生かせるレベルでのアーカイブがしたい」というニーズはかなりあるのですが、技術的にまだ実現できていません。
最近、建物の復元まで対応できるためには、どのようなデータが必要なのかを考えるプロジェクトも動き始めました。実現できれば社会的意義も大きいので、険しい道のりではありますが、少しずつでも前に進めていきたいです。
石井:また、一般企業からの依頼も増えています。歴史ある社屋や製品は、その企業の精神を映し出します。保存と公開の両立を考え、3Dデジタルアーカイブにしてその面影を残すだけではなく、周年イベントにおける記念映像やメタバース空間での商談場所としてなど、多種多様な活用が広がっています。
齋藤:撮影データを処理するソフトも年々進化していて、3Dガウシアンスプラッティングのような新しい3DCGの手法も出てきています。
こうした最新のトレンドをしっかりとキャッチアップしながら、活用の幅が広がるような撮影及びデータ化の方法を確立して、見る人によりよい体験を提供していきたいです。
参考記事:デジタルアーカイブを加速させる新技術 ― 「3Dガウシアンスプラッティング」とは?

石井:3Dガウシアンスプラッティングを活用すると、植物などの自然物もアーカイブしやすくなります。これまでの技術と比べて後処理の手軽さから、短期間で切り替わるような期間限定の展示会や企画展などの空間アーカイブがしやすくなるなど、可能性も広がっています。 将来的には、たとえば庭園の四季折々の移ろいを空間ごと保存するような、四次元的なデジタルアーカイブもできるかもしれません。
DNPグループとはもちろん、社外の研究者とも連携しながら、さまざまなソリューションを生み出して市場を拡大させていきたいですね。
最後に、建物やモノ、空間などの3Dデジタルアーカイブを検討している方へメッセージをお願いします。
石井:DCDには、3Dデジタルアーカイブの撮影や制作に対応できる人材が多数そろっています。加えて、DNPグループには美術館・博物館の鑑賞システムを専門的に担うチームなど、各領域に特化したプロフェッショナルもいて、必要に応じてすぐに連携が取れます。
繰り返しになりますが、データの保存だけでなくその後の活用まで見据えた総合的な提案ができるのがDCDの大きな強みです。どんなニーズに対しても、柔軟な対応で最適解を提供できるはず。まずはお気軽にご相談いただければと思います。
- 注釈2026年4月時点の情報です。