コラム

制作現場を見てきたプロが語る!
「ハイブリッド」がキーワード。カタログのデジタル化の波を経て考える「紙×デジタル」の未来

▼語り手プロフィール
株式会社DNPコミュニケーションデザイン
第2CXデザイン本部
(左から)課長 中村 一弘/Kazuhiro Nakamura、課長補佐 小山 祥恵/Shouei Koyama、課長 森田 淳/Atsushi Morita

1,000ページ以上のBtoBメーカーカタログを毎年制作しているスペシャリストが語る本音。 「カタログ」が行き着く未来とは?

たくさんの商品を抱える企業にとって欠かすことのできないツール「カタログ」。そのカタログも、時代の荒波にもまれながらさまざまな変遷をたどってきました。近年のペーパーレス化やDX推進にともなって、紙からデジタルへの移行を検討している企業も多いのではないでしょうか。この判断が、営業や販売促進、マーケティングなど、さまざまな側面に影響を及ぼすからこそ、慎重になってしまいますよね。

そこで今回は、約20年以上にわたりカタログ制作の第一線で活躍してきた、DNPコミュニケーションデザイン(以下、DCD)の制作メンバー3名へのインタビューを実施。カタログ制作現場の過去の実態から、現在のカタログの考え方、未来に向けたこれからのカタログなどについて、対談形式でお送りします。今後のカタログとの向き合い方を、ともに考察していきましょう。

1.20年で大きく変化したカタログ制作現場

— これまでのカタログづくりを振り返って、この20年余りではどのような変化を感じますか? 

森田:特に変化が大きかったのは、制作の現場側。当時は何千件もの店舗から情報を回収し、紙で校正のやりとりをするなんてことが日常茶飯事でした。しかもそのやりとりは、すべてFAX。修正指示の収集作業だけで、ものすごく労力がかかっていたんです。 

中村:関係各所に校正紙を持参する場面も多くて、コピーした3万枚の紙を運んでいたら紙袋が途中で破ける……なんてことも(笑)
今はオンライン校正ツールなどを使ってデジタル上で作業を行い、会議もリモートでできる。制作側も先方の担当者も負担が大きく減って、全体の進行がスムーズになったと思います。

森田:しかし、数十年経っても紙カタログ自体の役割はあまり変わっていないと思います。特にBtoB企業においては、昔も今もカタログは「1人の営業マン」。その役割に大きな変革は起こっていないんです。

中村:ただ、紙カタログと並行してPDFデータをWeb上でパラパラとめくって見られるデジタルページメディアが導入されるようになりました。顧客ニーズが細分化したため、ラインナップが増加したりとカタログ制作担当者は以前よりも業務が増えてしまっています。しかし、制作業務のノウハウを継承できていなかったり、自社にデータがなく長年付き合ってきた制作会社しかわからなくなっているなんてこともたまに聞きます。

参照:株式会社トライベック・ブランド戦略研究所 第3回 BtoBサイトの利用目的

2.近年主流の「商品検索サイト」方式カタログの実態

— デジタルカタログは、ITの進化にともなって徐々に普及してきました。近年はさらに発展した形態が見られるようになりましたね。

森田:はい。デジタルページメディアではなく、「検索する」という体験から根本的に変えてしまおうというのが、最近主流の「商品検索サイト」方式のデジタルカタログ。既存顧客であっても新規顧客であっても調べたい情報にスピーディにたどりつける設計であるとともに、仕様・画像・動画・AR・VRなどにより多面的に製品情報を理解できる構造を目指しています。

小山:しかし、現状は紙カタログにある「一覧性」を商品検索サイトで完全に満たすことは難しい状態です。一体どのくらいの商品の中から選んだのかがわからない、もう少し小さいものが欲しくても新たに検索をかけてみないとわからない。このスキマの需要に応えられる一覧性は、現状は紙だけが持っています。つまり商品検索サイト方式は、まだまだ改善の余地があると言えます。

— ユーザー視点だけでなくクライアント視点で捉えてみると、商品検索サイトはどのような特性や利点がありますか?

小山:商品検索サイトづくりを機に、全商品の画像素材を制作できること、そしてストックできることですね。紙カタログの場合、メインカラー以外のカラーバリエーションはアイコンなどで表現されるケースがほとんど。つまり誌面の制約がある分、制作する画像素材が少ない傾向にあるんですよ。一方、Webの場合はそのすべてを載せるので、全素材を制作し納品します。営業資料などにも活用できて便利です。

森田:CGでゼロから制作する素材も多く、ここでそれがすべて揃うとなるととても助かるという方も多いはず。ちなみに最近実施したプロジェクトでは、半年で10万点の素材を制作して納品していました。

3.見直されはじめる「紙カタログの魅力」とは

— 商品検索サイト以外のツールにも影響を与えるんですね。ただ一方で、「一覧性」の面ではまだ紙カタログの方が優れているという話がありました。

森田:はい。見開きで全体を見渡せることは、やはり紙カタログの最大の魅力です。さらに、偶然の発見や出会いを創出し、購買欲求を引き出しやすいことも良いポイント。また、例えば電気カーペットを探していたけれど、見ていくうちに電気ストーブの方が自分に合っているかも、と気づくことってありませんか?Webでは最初からワードやカテゴリで絞って探しに行くので、メーカー比較の方に目がいきやすい。意識の向く方向が違うように感じます。

小山:特にBtoB企業の紙カタログは使われ方が少し独特でして。商品を探すことが主目的ですが、取引先に存在すること自体で目に触れる機会を創り、それ自体がブランディングになり、価値になっているケースもあります。カタログがこうした広告塔のような役割を担う場面があるのも面白いところです。

中村:紙カタログをなくしたことで「新規顧客を獲得するのが難しくなった」という話も聞きますね。年1回のあいさつ代わりにカタログを渡しに行くことで、受注につながることもあった。会えなくても、訪問したことを知ってもらうためにカタログを置いていくこともあった。別の施策やツールで補える部分かもしれませんが、やはりこれによって販促の現場から「デジタル一本では難しい」という声が挙がっていたりします。「とにかくそこに存在すること」が、カタログの一つの価値なんですよね。

4.紙×デジタルの「ハイブリッド」からパーソナライズへ

— デジタル化を進めてきたからこそ浮き彫りになった、紙カタログの良さもあるんですね。

森田:欧米ではすでに、あらためて紙カタログの価値を見直そうという動きが出てきているそうです。「紙を使わないこと」は時代に即していますが、まだ「絶対デジタル化した方が便利」とは断言できないところが要素としては大きそうですね。

中村:パーソナライズの動き、というのも海外で出てきていると聞きます。個々の履歴に合わせて、カスタマイズされたカタログが届く。その特別感は、また違ったコミュニケーションを生むことにつながります。新たなカタログのかたちが誕生するかもしれませんね。

小山:まだまだ試行錯誤が続きますが、これからは紙とデジタルのハイブリッドの時代。無駄なコストを削減しつつ、カタログや商品の価値を最大化するにはどうすればよいかを考えながら、UIやUXを含めた全体を設計していきたいですね。長きにわたりカタログと向き合ってきた一企業として、最適解を導き出したいと思います。

森田:AIが普及・進化すれば、もしかしたら「検索という行為」もいらない時代がやってくるかもしれない。これからの時代、紙のもつ一覧性という優れた機能とともにデジタルの検索性やパーソナライゼーションを同時にもたらすことができるかもしれません。
そのためには、日々、カタログの制作現場において、顧客・生活者視点でのUI/UXを探究しつつ、最新技術も学ぶことが大切です。

紙かデジタルか、その2択しかないわけではありません。正解もありません。扱う商品や届けたいターゲット、業界傾向などによって、その使い方は変わります。カタログや販促に悩みをお持ちの方は、ぜひ一度私たちにご相談を。一緒に最適解を探していきましょう。

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