企業の記憶を未来へつなぐ ─ アーカイブ構築のプロフェッショナルが語る、企業アーカイブ構築の全体像

2026年08月21日

企業アーカイブコンサルタント山田高久
▼語り手プロフィール
株式会社DNPコミュニケーションデザイン
中部CXデザイン本部  
山田 高久/Takahisa Yamada

DNPコミュニケーションデザイン(以下、DCD)では、企画・制作における、多くのコミュニケーションのプロが活躍しています。そうしたプロフェッショナルたちにスポットライトを当てる企画、題して「DーProfessional」。今回は、企業の歴史資料を収集・整理し、活用へとつなぐ企業アーカイブ構築のプロフェッショナル、山田高久です。

【D-Professional】への7つの質問

1. 名前と社歴

年史から企業アーカイブへ ─ 40年弱のキャリア、積み上げた専門知識

山田高久です。1988年にDNPに入社し、2019年にDCDに転籍しました。現在は中部CXデザイン本部で主幹企画員を務めています。

入社当初の1990年代は企画部門に在籍し、企業が発行する年史の編纂を中心に取り組んでいました。2000年代に入ると、年史制作と並行して企業の資料目録集の作成やデータベース構築支援なども担うようになりました。日常業務で使用する文書は管理規定があるものの、それ以外の膨大な経営資料の扱いに困っている企業が少なくない現状を知り、資料の保管と活用への関心が深まりました。企業アーカイブ構築を手掛けはじめたのもこの頃からです。

大きな転機となったのは、2010年前後に担当した、ある長い歴史を持つ食品メーカーの企業資料調査です。同社から、新本社への移転を機に「旧社屋にある資料をどのように残すべきか」と相談を受けたことで、アーカイブの専門知識を体系的に学ぶ必要性を感じました。そこで、経営史学会に所属する大学教授の協力を仰ぎながら、3年ほどかけて資料の選別・整理・保存に取り組みました。

この調査以降、企業アーカイブ構築の重要性をより強く実感し、現在に至るまで主体的に取り組みながら、その資料活用の一環として年史編集にも携わっています。

これまで歩んできたキャリアを語る山田高久

2. 手掛けている業務

「どんな資料を残すか」から「どう活かすか」まで — 企業アーカイブ構築の全体設計

私が主に担っているのは「企業アーカイブ構築のコンサルティング」です。企業が長年にわたって社内で蓄積してきた文書・写真・動画・音声などの資料を、どのように体系立てて整理し、経営に活かしていくかを得意先とともに検討します。

具体的には、まず社内のアーカイブの現状を理解・把握するところから開始します。現状と課題を整理した上で、中長期的な視点でガイドラインを策定し、それを専門的かつ組織的に運用するためのアーカイブチームの設置までを提案します。アーカイブ構築は、①収集・調査(目録作成)→②蓄積・構築(電子化)→③保管・管理(ファイリング)→④活用・展開(サイクル構築)という流れで進めます。

企業資料を収集・整理・管理し、企業活動に活かすアーカイブサイクル

特に重要なのが「ガイドライン策定」です。アーカイブ部署が存在していても、ガイドラインが未整備、あるいは機能していないケースは少なくありません。下記、資料の4つの条件をどのように担保するか明確にすることで、持続的な運用が可能になります。

  • 真正性:記録がまさに本物であること
  • 信頼性:記録が業務・活動を正確に表しており証拠となりうること
  • 完全性:記録が無断で変更されていないこと
  • 利用性:記録の所在場所が特定でき、組織活動とともに提示可能なこと

情報の信頼性が厳しく問われる現在、根拠となる資料を適切に保存・管理できる仕組みは企業にとって不可欠です。整理・蓄積された資料は、ブランディング、内部統制、業務改善・効率化など、さまざまな企業活動へと展開できます。アーカイブとは単なる保存ではなく、経営資源を育てていく仕組みそのものです。

3. あなたの強みは?

資料を「群」で束ね、情報へと変換するコンサルティング力

私の強みは、企業資料・資産を企業にとって意味ある情報へと変換するコンサルティング力です。

資料は単体で保管されているだけでは価値を発揮しません。複数の資料が意図をもって「群」として整理されて初めて活用可能な情報になります。

例えば企業の歴史を記述する際には、社会背景、企業方針、現場の実態といった複数の観点が資料によって裏付けられている必要があります。単体では見えなかった意味が、文脈のなかに位置づけられることで価値が生まれます。

かつては社史そのものが企業アーカイブの役割を担っていました。長年にわたる年史編纂の経験を通じて培われた「必要な資料の見極め」と「編集による構造化」の力が、現在のコンサルティングの基盤となっています。

4. 譲れないこだわりは?

得意先担当者にとって最良のパートナーであり続けること

業務で最も大切にしているのは、得意先担当者にとって最良のパートナーであり続けることです。

そのためには専門家として、常に最新の事例や知見を提供できる状態であることが求められます。社外のセミナーや学会にも継続的に参加し、知識の更新を続けています。

また、プロジェクト完遂後の運用までを見据えて伴走し続ける点も重視しています。アーカイブは構築して終わりではなく、長期的に活用されて初めて価値を生むものです。中長期にわたる関係のなかで、負担を抑えつつ課題に向き合い続けることが重要だと考えています。

業務へのこだわりを語る山田高久

5. この仕事の醍醐味(だいごみ)は?

経営者の「生の記録」に触れ、企業理解を深められること

醍醐味は、経営者の生の記録に触れられる点です。

資料だけでは把握できない文脈を補うため、歴代経営者や役員OBへのインタビューを行うことがあります。当時の意思決定や背景にある考えに触れることで、企業理解をより深められる点にこの仕事ならではの魅力を感じています

6. 今後挑戦していきたいことは?

資料の収集・整理・執筆にAIを活用、アーカイブの可能性を拡張

今後はAIの活用をさらに進めていきたいと考えています。アーカイブや年史編纂の現場において、資料整理や要約、執筆支援の効率化が期待されています。

資料の収集・整理フェーズでは、紙資料の文字情報のOCR(※1)によるテキストデータ化や、音声の自動文字起こしや要約などが有効です。また曖昧な指示にも応えるセマンティック検索(※2)や、年表の自動生成なども実用化が進んでいます。執筆・編集フェーズでは、年表やインタビューをもとに下書き原稿作成や、表記統一などにAIを活用できます。

一方で、事実確認や機密情報管理などにおいては人間の判断が不可欠です。史実や数字のハルシネーション(※3)のチェックは人間が行う必要があります。特に機密性の高い情報は、セキュリティが担保された環境で取り扱う必要があります。

また、AIが生成する文章は論理的な傾向があるため、読者の心を揺さぶる「熱量」は、最後に人間が加筆していく必要があります。AIを適切に活用しながら、人の判断と組み合わせることで、より高度なアーカイブ活用を実現していきます。

  • 注釈1OCR(Optical Character Recognition):紙の文書や画像に印刷・記載された文字を、コンピューターが認識・読み取りできるテキストデータに変換する技術のこと。
  • 注釈2セマンティック検索:キーワードの完全一致だけでなく、文章の意味や文脈を理解した上で関連性の高い情報を検索する技術のこと。「意味検索」とも呼ばれる。
  • 注釈3ハルシネーション:AIが事実と異なる情報を、あたかも正確であるかのように生成してしまう現象のこと。「幻覚」とも訳される。

7. あなたにとってプロジェクトの成功とは?

正確な資料と史実を通じて、企業の想いを社会に伝え続けられる状態

企業アーカイブの成果は長期視点で評価されるものです。制作直後ではなく、その後どのように活用され、価値を生んだかが重要になります。

企業が自らの存在意義や価値を社会に伝える機会が増えるなかで、その根拠となるアーカイブの役割は一層重要になっています。

私にとっての成功とは、企業の想いや歴史が正確な資料にもとづいて継続的に発信され、それが社会との信頼関係の構築につながっている状態です。

一つひとつの資料を丁寧に次世代へつないでいくことが、企業と社会をつなぐ基盤になると考えています。

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